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[コメント] 青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない(2019/日)

すげえ卑怯。こんな可愛い子たちのハーレムで彼女らの運命をもてあそんで。何度も泣きそうになった老い先短い豚ジジイの気持ちをどうしてくれる。(2023年6月28日付記)
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ちなみに先行作であるらしい『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』は未見だが、観るべきか迷っている。作者はアタマがいいというか、こういう登場人物を翻弄した上で恥ずかし気もなく日常ロマンス物に戻せる技術をもっているのだよな。つうか、鉄の意志を持っているのだろう。

憚りながら、もう仕事ではないもののぴちぴちした女の子たちのフィクションも描いているこの俺は、そのひとりでも暴走自動車にはね飛ばされて路上に血みどろで横たわっている、なんて場面を描いたら、とてもその子のその後なんて描く気にはなれない。つうか筆を折る。プロであり続けるとはそういうコトなのかもしれないが、作者はヒロインを愛していないか、あるいは本当に強力な鉄の意志を抱いているのかどっちかなのだろう。

この作品の女の子たちはみな造形的に可愛い。当然のことで、髪型やヘアカラー以外では女の子たちは見分けられないほど相似形だからだ。俺も冒頭ではかなり困惑した。だが、これはデザイナーの無能さを反映したものではない。主人公のブタ野郎同様、ひとりを活かすためにもうひとりを見殺しにする選択を容易に行わせず、苦悩させるためだ。キツネ目の女の子が好きな奴は、タヌキ目娘がその代わりに死んでも大して悩まないからだ。冷徹だなあ。あああ、なんと強力な鉄の意志だ。

そういうワケで、俺は断腸の思いでこの作品世界にさよならする。可愛いバニーガール先輩は、今後も絶命したり甦ったりするのだろう。俺はそのたびに泣いたり安堵したりできる便利な観客ではない。最期は首だけでさらし物になると知ってて、どこかの美樹ちゃんを素直に可愛がれないんだ。つまり、ゲーム世代とは違うってことなんだろう。人の生き死にのやり直しができる鉄の意志なんて、俺は持たないし持ちたいとも思わない。そこらへんは頑固な軟弱ジジイなのだ。

と、自分を納得させて2点に降格する。

(付記)などと偉そうな言葉を吐きながら、どうにも後ろ髪引かれる思いで『バニーガール先輩…』を一気見してしまった…ダメだ、完敗だ。なんて主人公の男は優しいんだろう。もちろん現われる娘たちの素晴らしさと哀しさに涙腺は緩みっぱなしだった。作者への誹謗は大半は取り下げるつもりだ。

だが、申し訳ないがバニーガール先輩を一度はマジで殺した件で、この2点評価は取り下げない。『あばしり一家』の直次郎が言うように死者が死体を見せないときは、フィクションではそいつは生きているのだ。だが、先輩はまともに死体を晒しており、弁解の余地はない。SFの約束事は心得ているつもりだが、『七瀬ふたたび』のタイムトラベラー藤子の自嘲を思い起こされたい。時間遡行はひとつの並行世界を生み出し、そこに逃亡する技術に過ぎない。逃亡により遡行者は平穏を得るが、元の世界には遡行者までもが去ったためにさらに悪化した状況が残される…という仮定だ。俺はこのくだりを読んで以来、タイムトラベル物に納得できない体質になってしまった。

作者の抒情作家としての才能はよくわかった。…だが、SFというのは安易に弄べない世界だという自戒をこめて、やはり2点。べつの映画で高得点をつけたい。

(評価:★2)

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