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[コメント] 日本のいちばん長い日(2015/日)

現実味を帯びた熱い人間模様の描出としては鑑賞中時間を忘れる程度によく出来ているのだが、もう一歩「虚しさ」みたいなものを感じさせるまでの後味には至らなかった気がする。それができてこそのリメイクだと思うのだが。
緑雨

岡本喜八の1967年版との比較でいえば、天皇・鈴木・阿南らの人物造形に踏み込んだところがやはり挙げられる。個人的には、本木・役所よりも山崎努の鈴木首相が面白いと思った。この鈴木貫太郎という人物は、日本の現代史において極めて重要な役割を担ったにもかかわらず、その知名度は低く人となりも知られているとは言えない。それだけにこの山崎のオーバーアクト気味な些かエキセントリックな演技演出が、清濁合わせ飲み重大事に挑んだ老政治家の人物像の新解釈として妙味を生む。1967年版の笠智衆とは好対照である。他方、1967年版には登場しなかった東条英機についてはちょっと悪意を持った描き方をされていてイメージと異なる。実際の東条は几帳面で部下思い、悪く言えば官僚的な小人物だったそうである。

カラー映像化されたことで、衣装やセット・美術を通じて往時の空気をリアリティをもって感じることができるのは本作の醍醐味であろう。クーデタに臨む将校たちが自転車で移動する件りなど、興味深いし、鈴木家・阿南家などの日本家屋の趣もよい。惜しむらくは、松坂桃李ら反乱将校たちが、やはり単に思慮の足らないオカシな人たちにしか見えないところ。彼らは彼らなりに、そうせざるを得ない情状があったはずであろうに、それがうまく伝わらない。史実を知っている我々からすれば、彼らの宮城クーデタが失敗に終わることはわかっている。それにも関わらず、このままでは終戦できないのではないかとはらはらしてしまうのは、終戦こそが正道であり、クーデタによる本土決戦・徹底抗戦は邪道であるという価値観から離れていない証左である。その価値観に揺さぶりをかけてくれることを期待したのだけれど。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ジェリー[*] けにろん[*] ぽんしゅう[*]

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