[コメント] ゴジラvsビオランテ(1989/日)
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たしかに、新しい『ゴジラ』への意気込みがあったのかもしれない。しかし、大森一樹の意図したタッチは鋭すぎ、その上深く切り込みすぎた。稀代のシナリオライターも、頭でっかちにも策士策におぼれてしうまったのだろう。
代々続いた和菓子の老舗が、新しい商品を開発しようとしたところを想像してみる。
そのために呼ばれたのは、和菓子の知識と技術に優れ、そして伝統的な和菓子の世界に新しい流れを作ったパイオニアと、自他共に認める才能あふれる職人(大森)だ。
そして、彼が作ったのは伝統的な「大福」でもなく、現代のセンスや技術で製品自体や製法をブラッシュアップした「ニュー大福」でもなく、「いちご大福」だった……。
「いちご大福」は、キワモノの例えとして持ち出したわけではない。
これは、先入観を持たずに口にしてみれば「意外とおいしいもの」の実例として、『美味しんぼ』の原作にも登場したくらいの隠れた名品だ。事実、市井の和菓子店や製菓メーカーが売り出した「いちご大福」は、一時ポピュラーな存在だったし、ちょっとしたブームになったとも言えるだろう。
しかし、例えば「銀座あけぼの」がいちご大福を新発売したとしたら、消費者は「それ」に従来の商品と変わらぬ1個200円の価値を認め、お金を払ってもいいと思うだろうか?
おそらくはそれ自体がおいしいのかどうか、価値があるのかないのか以前に、「手をのばすのを躊躇する」一定層が存在してしまうことだろう。
ここで「日本の怪獣映画」、「怪獣映画としてのゴジラ」それぞれののポジショニングをあらためて考えてみる。
「日本の和菓子」「和菓子としての大福」という図式にあてはめてみると……才能あふれる職人(大森)が、得意の「換骨奪胎」で作り上げた「いちご大福」=「新しいゴジラ像」は、そもそも、「とらや」レベルの歴史やステイタスのある老舗(=「東宝」)の製品として作られたものではなかったのか?(※)
そのステイタスが実をともなっているかどうかの議論は別として、こと老舗の製品として考えれば、「なぜそんなものを……」と思うボリュームゾーンが存在することになっても不自然ではないはずだ。
さて、その後。
結果として、数字を出すための路線変更を余儀無くされた職人(大森)は、ギリギリの妥協を自らに課し、苦労しながらも良質な製品を産み出しては行くものの、やはり最初のボタンの掛け違いが、最後まで尾をひくことになってしまったのではないだろうか。
『ビオランテ』単独なら、まだ評価できても、これに続く平成VSシリーズの存在を考えたときに声が小さくなってしまうのはそのせいだ。
「怪獣ではない、あれはビオランテだ……」命名(?)場面の耽美、狂気の描写こそ、私には大森の持つ「怪獣映画への否定」の象徴にも思えた。
あるいは、新趣向で斬新に構成しようと思うことができたのは、大森一樹がこのとき既に怪獣映画に主観的な終焉を見ていたからこそではないだろうか。
しかし、21世紀になっても怪獣映画が生き続けているのは、まぎれもない事実だ。
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そして、平成ゴジラシリーズの行く末には、意外な後日談が発生してしまっている。じつは、大森が脚本を書くものの、監督からは降りることが決まっていた『ゴジラVSモスラ』の監督に金子修介が手を挙げていたのだ。
既にそのとき大河原孝夫に決定済だったため、検討すらされなかった「金子ゴジラ」だが、このエピソードが後に、金子本人の意識とは別のところに「平成『ガメラ』で東宝に敵討ち」という図式を生んでしまった……という話は、彼の著作『ガメラ監督日記』に詳しい。
時は流れて平成『ガメラ』で金子がどういう形で結果的に「敵討ち」をすることになったのかは、今さら言うまでもない。
大森の、金子の、それぞれの映画へのこだわり、そして怪獣映画へのこだわりはいったいどこを向いていたのか。それが結果、成果の差になったということなのだろう。ゴジラは怪獣映画であり、日本の怪獣映画とはどういうものだったのか、そして、どうダメになってきたのか……ここまでは二人とも同じような認識を持っていたのだろう。
ところが、そういった一連の問題をどう消化、解消するのかという具体的な方法論の段階で、大森は怪獣映画を捨てた。『ガメラ』で金子は怪獣映画にこだわり抜いた。それが、あらゆる面での最終的な差になってしまった。
その金子が監督した『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』がどうなったのか……というのはもちろん別の話なのだけれど。
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(※)そう考えると『GODZILLA/ゴジラ』が「大福」足り得ないのはしかたがない、とも思う。思い出すのは『サボテンブラザース』の主人公たちと、バーの主人との会話。
──「テキーラ? そりゃなんだい?」「ビールみたいなもんだよ」
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