え？ダニエル･クレイグはまだダブルオーになる前から｢ジェームズ｣って呼ばれてたじゃないかって？…そんなん彼がダブルオーになる前の本名が「ジェームズ･ベッカム」とか｢ジェームズ･ルーニー｣だったのかもしれないじゃねーかよ！(無茶ギレ)

アヴァン･タイトルからこれまでにない残酷、というか生生しい殺害方法を見せることで、作り手の意図である｢これまでの007とは別人なんですよ｣というエクスキューズを打ち出すのに見事に成功しているせいか、はたまたお約束のタイトル･クレジットと直後の息をも尽かせぬアクションで騙されたかは定かではありませんが、とにかく最後まで違和感を感じることなくこの新しい｢007｣を楽しむことができました。

公開前は賛否両論、というより否定的意見が多く聞こえてきたダニエル･クレイグも素晴らしい演技です。感情を出すところは時には彼の十八番とも言える狂気を携えながらこれまでオレ達が目にすることが無かった荒削りなジェームズ･ボンドを見せ、フォーマルな部分で決めるところはビシッと決めながら、今後の成長した、これまでオレ達が目にしてきた歴代のジェームズ･ボンドが見せたオトナの片鱗を見せることに成功しているので、今後このボンドがこの一件を糧として成長して洗練されていくであろうことは一目瞭然であり次回作を待ち遠しくさせるという意味でも最高の芝居だったのではないでしょうか。

多くの作品ではどうしても時代の流れと共に設定が時代にそぐわなくなったり、演者の入れ替えに失敗したり演者が歳を取ったり、そもそもマンネリ化したりとなかなかひとつのシリーズを長く楽しめるということが難しい（中には『ロッキー』のように演者とキャラクターを意図的に同一視させるように仕向けて成功するものもありますが）のですが、｢007｣シリーズは今作品で見事に若返ることに成功したと思います。いつもの特殊アイテムも控えめでMI6の面々もMしか出てきませんでしたが、出来れば次回はQあたりを新キャラとして若返らせて、それこそ「二代目Q」ってな感じで出してくれると嬉しいな、とんでもないアイテムとか作ってボンドに呆れられたりして、なんて夢が見れちゃうのは、大画面で｢Qも歳取ったなぁ…｣なんて感慨に耽るよりよっぽど幸せな時間でした。

ちなみにオープニングテーマの｢YOU KNOW MY NAME｣を｢オレの名がわかるはず｣とか訳してあって何となく｢？｣という感じがしました。ここは｢オレの名を刻み込め｣とかもう少し最期の言葉風な感じが良いのでは？と思ったりもしましたのですが、まあそれは各人の好みですし何より英語がまるっきりアホなオレがいうのもちゃんちゃらおかしいなと思ったのですが、でも本編の台詞中に出てきた（と後で知った）「ミス･マネーペニー」の部分はちゃんと訳して欲しかったなあ。頼むよ戸田先生。

超余談：今回原作に忠実に描かれていたマティーニですが、あれを飲み屋で頼むときは「ヴェスパー･マティーニ」もしくは｢ドライ･リレ･カジノロワイヤル｣と言ってください。｢ボンド･マティーニ｣だとこれまでの、ウォッカマティーニ＋レモンピールが出てきます。ただし、劇中のレシピである｢キナ･リレ」というベルモットは日本では成分の関係で売られていません（ひょっとしたら製造自体終了かも）のでそこは通常の「リレ」、年季と気合の入った店ならチンザノの｢キナ｣で代用されるかと思います。味のほうは代用バージョンの方がオリジナルより苦味が少ない（苦味と言ってもいろいろありますが、この苦味はまさにトニックウォーターの苦味と同じ成分なので、あの苦味を思い出してください）と思ってもらえばよいです。