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[コメント] ナバロンの要塞(1961/米)

少数精鋭による、難攻不落の要塞の攻略、という男児的浪漫全開の物語ではあるけれど、その実、戦争というものへのシニシズムに充ちたドラマ。次々と危機が襲い来る展開は飽きさせないが、それらを乗り越える過程にもどこか苦味が漂うのだ。
煽尼采

**ネタバレ注意**
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男児的浪漫へのシニシズムは、拷問を恐れて仲間を裏切る女ゲリラの悲哀という形でも表れる。

「敵」の描き方も、単純な勧善懲悪を逃れている。負傷者である捕虜を拷問しようとする親衛隊に抗議するドイツ軍人の高貴さや、まだあどけないような若いドイツ兵たちが、自分たちの陣地に侵入者がある事にも気づかず歓談する光景など、決してドイツ軍は非人間的な殺人機械のように描かれていない。むしろ主人公マロリーの、苦渋に満ちた冷酷さ、とでもいった所に焦点が合わされている事で、脚本に深い陰影が刻まれている点が、今観ても新鮮だ。

劇中で爆弾男が吐く「この世の終わりまで戦争は無くならんよ」という叫びは、最後には彼がマロリーと和解した事や、作戦が成功した事などでうやむやに流されたようにも思えるが、あのラスト・ショットの光景――ダークブルーに沈む海、黒々とした島影、活火山のように真っ赤な火を吐き続ける、要塞であった岩山――は、まさに「この世の終わり」。尤も、ジョン・ヒューストンの『白い砂』での海上戦の終末感にはやや負けるかも知れないが。

それにしても、わが愛読する『銀河英雄伝説』の「イゼルローン要塞」は、やはりこれが元ネタなんだろうな。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)緑雨[*] Orpheus シーチキン[*] ゑぎ

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