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[コメント] ハンコック(2008/米)

英和辞典によると「John Hancock」は、アメリカ独立宣言に最初に署名した人物であり、その名は「自筆の署名」の代名詞となったらしい。つまりこれはアメリカという国家の物語であり、匿名のアメリカ人の物語でもある訳だ。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







自分なりに人助けをしているつもりなのに皆から嫌われるハンコックは、ブッシュ時代の米国そのもの。今観ると、黒人が主人公という事も相俟って、オバマへの橋渡し的な作品にも見えてくる。

怠惰な動作で物を破壊していくハンコック。怠惰な、とは、自然な、という事とイコールであり、そのおかげで彼は、今だかつて無かったほどに感情移入できるヒーローだ。彼がふらっと飛んでいく時の浮遊感、すぐ目の前の飛行機を避けたり、鳥に打つかって難儀する様。列車に衝突しかけた自動車を引っくり返す時の、邪魔な荷物を除けるような何げない仕種。自然な動作での、超人的な力の発揮。それがなんだか、観ていて妙に心地好い。「ass hole」と呼ばれて「お前の頭を奴のケツに突っ込むぞ」と言い返し、本当に「ass hole」に頭を突っ込んでしまう無茶苦茶さ加減なども良い。

ところで、彼のPRマンを買って出るレイが普及させようとしているハートマークは、企業にとっての実質的な見返りを保証する所が無く、100%の善意を要求するような理想論。善い事をしようとしているのに人々から邪魔者扱いされ、相手にされないという点では、ハンコックと同様であり、彼らは同じコインの表と裏の関係だと言える。

絶対的な力を持つ事の孤独と、絶対的な善意に生きようとする事の無力。この二つを繋ぐのが、メアリーだ。彼女がハンコックと結ばれ、一緒に生きる事は、二人ともに、無敵で不老不死の存在としての自分を放棄する事になる。注射器の針をも通さぬ肌を持つ鉄壁の存在であり、注射やら何やらを必要としないほどの回復力を持つという事は、無防備な所を持たない自己完結的な存在であるという事。だから、優しさとか愛とかは、弱さ、力の放棄を意味する訳だ。

終盤の、力を失いかけていたハンコックが、撃たれたメアリーに再び不死身の力を返す為に、必死にジャンプして遠く離れようとする場面は、切ない。ラストの、ハンコックがその超能力によって満月に描いたハートマークは、超能力の破壊性と、ハートマークの無力さとを同時に克服している。アメリカが誇り、またそれ故に非難もされる「力の行使」について、これほどほろ苦く、アイロニカルでさえあり、なおかつ優しさに充ちた結末を描いたそのセンスには、素直に感動させられる。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)伊香 tkcrows[*] IN4MATION[*] TM[*] けにろん[*]

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