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[コメント] 醜聞(1950/日)

桂木洋子登場以前は第一級の黒澤コメディ。それ以降も笑える細部がちりばめられてはいるが、このような状況を設定しておきながらコメディを貫かないというのは演出家の勘を疑わざるをえない。しかし、やはり超然として無垢な三船敏郎に爆笑&感動する。「青江さん!」「違います。サンタクロースです!」て。
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結局のところ黒澤志村喬の物語を語りたかったということだろう。三船と山口淑子の微妙な関係性の発展を軸としたコメディを期待した私は肩透かしを食らうが、とにかくここでは笑える細部を愛でることにする。「恋はオートバイに乗って」という馬鹿コピーが街に氾濫するシーンの阿呆らしさ。三船が小沢栄を殴打した事件ののち新聞記者に囲まれた両者のカットバック、ふたりの両極端なキャラクタ性が衝突する可笑しさ。サンドウィッチマンとのやりとりを含む個展シーンも三船の個性と社会の齟齬をよく笑いに転じている。志村の事務所が屋上に設えてあるというぶっ飛んだ着想も楽しい。

法廷劇としてはつまらない。それは論理性の欠如のためではない。映画における裁判に精緻な論理は求められず、むしろ論理の欠如/飛躍/破綻をどのように仕掛けるかによって面白さが決まってくる。フォードプリースト判事』がよい例だ。あるいは、ここでは三船の口上にしても志村のそれにしても「青臭い正論に過ぎないかもしれん。説教じみているかもしれん。しかし感動する」というキャプラ的マジックが起こっていない、と云ってもよい。いずれにしても、それはアメリカ映画の咀嚼がじゅうぶんでないためだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ゑぎ[*] 緑雨[*] づん[*]

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