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[コメント] ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い(2009/米)

「後出しじゃんけん的設定」が可能にする「状況」のつるべ撃ちの面白さ。時系列で翻弄されてもちいとも面白くないはずだ。「呑んじゃった」後だから良い。少なくとも鉄板ネタを一回捻る志の高さが嬉しい。大騒ぎすべき水準ではないし、懐疑的な輩をねじ伏せる腕力はないと思うけど、徹頭徹尾阿呆でありながらギリギリ悪ノリせず(ほぼ)必然の範囲で慎ましいという良心的なスタイルは素直に歓迎したい。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







歯科医ヘルムスの顔面ももともとかなり面白いことに加え、笑いの烙印のように「歯抜け」を刻んでくれる。『ダージリン急行』のオーウェン・ウィルソンの歯抜けのような深みとコク(あれは段々笑えなくなるのがミソだ)はないものの、スクリーンに映され続ける限り、ネタの威力は維持され続ける。単純な話、抜いた歯は簡単には元に戻らないからだ。「日焼け」についてもそうである。こういった「刻印」という面白さは、半ば鉄板と言っていいと思う(後述の『バッド・ルーテナント』における「刻印」は「腰痛」。この面白さを凌ぐ迫力は本作にはない。面白いけど)。

「予期せぬ預かりもの」というのもまた鉄板。普通は「犬」か「爆弾」か「赤ん坊」で、赤ん坊はそのまま鉄板だが、「虎」は恐れ入る(『バッド・ルーテナント』や『恋愛小説家』の「犬」を凌駕するものではないんだけど・・・)

「酔っ払い」「ベガス」といった設定が可能にする「理解不能な状況」の面白さを最大限に追求しながら、一方で最大限に理性的に作られており、しかもあくまでアホらしいという域に作品をとどめる。ギリギリなバランス感覚を保つことは、悪ノリに逃げるよりよほど志が高い。だから、節目以外では状況の調味料にとどまるガリフィナーキスに、全盛期の(正確には、映画ではなくサタデーナイトライブの)ジョン・ベルーシ的なきなくさい爆発力を求めるのも、場違いな話なのだろう。ラストの逆転劇もむしろ地味かつ意外な代替案の提示が欲しかった。それじゃつまんない、って言われそうですが。

純粋なコメディを目指しているわけではないにも関わらず、コメディよりもはるかに笑えてしまう作品(個人的にはしつこく推している『バッド・ルーテナント』が顕著)が増えている中で、ウディ・アレンのような実力も伴った特権的地位にある作品群を除き、「コメディ」を標榜する映画達はいささか居心地が悪そうに見える。悪ノリとドヤ顔に逃げない限りにおいては、こういった馬鹿馬鹿しくも良心的な作品は臆せずに生まれて欲しいと思う。

ヘザー・グラハムが切ない。あっけらかんとはっちゃけているほど、ああいった境遇の女性は切なく、悲劇的に見える。

(評価:★4)

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