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[コメント] ロブスター(2015/アイルランド=英=ギリシャ=仏=オランダ=米)

(多分)少子化、右傾化、からの全体主義が煮詰まると「愛」という「概念」が死ぬらしい。『散歩する侵略者』に「概念」を奪われてメチャクチャなままに放置されたような世界観。間違いだらけの「愛」の実践(「講義」のバカバカしさ)から「じゃあ正解の愛ってなんだっけ」の宙づり感へ。愛の嘘を暴いて冷ややかに笑うレア・セドゥの「間違ってるのに正しい変なテロ」が不思議。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







演出面では監督の変な美意識が炸裂しており、やたらとアーティスティック。『聖なる鹿殺し』から逆走して見ているが、やはりホテルの描写を見てもキューブリックからの影響が明らか(オーバールックホテルですよ!)。清潔感のあるシンメトリーが非常に気持ち悪い。劇伴にショスタコーヴィチのカミソリのような弦楽四重奏8番を使っている(キューブリックもショスタコ使ってましたね。曲調は全然異なりますが。この曲は確か体制の狭間でかなり追い詰められていた時の曲で、ファシズムと戦争の犠牲者に捧ぐとされているが、本人を暗示するdsch音型が組み込まれていて自伝的に氏の作品でも更に際立って鬼気迫る曲である。)

また、ここでは冒頭に挙げたように、黒沢清の相似性も感じた。『散歩する侵略者』は本作の後の公開だから因果関係はない(原作の演劇を見ているかはわからない)のだが、ともかく、『CURE』や『ドッペルゲンガー』で見られたような概念や記憶の喪失から始まる恐怖と表裏一体のようなおかしさに共通項がある。

おかしいといっても上記の演出が異様過ぎるレベルなので、「今のってもしかして笑うところだったのか・・・?」と振り返りを迫られるところが多々あった。どの場面でもギリギリを攻めている感じで、「マスターベーションをしてきました」と少し息を切らしてレアに報告するファレルとか、ようやるわ、と思いました。マティーニのくだりはストレートに吹き出したけれど。

ラスト、主人公は目を抉れずに「愛」というものが再びわからなくなって逃げた(その後ロブスターにトランスフォームした)のだろうと思いますが、皆さんはいかがでしょう。このへんの観察に、各々の人間観が表れてくるように撮られていると思います。

(評価:★4)

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