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[コメント] 鉄男 TETSUO(1989/日)

無機物のグロテスクな有機感(濡れた鋼)。呼応しあう鉄と肉の怒号と交歓。「都市への怒り」→「強くなりたい」→「鉄と肉の融合(媾合)」という 短絡性が確信に結びつくとき、馬鹿馬鹿しい程のエネルギーが生まれ、鉄は肉に、肉は鉄になる「新世界」へ。ある都市論の可視化が鉄肉愛憎表裏一体 のセックスと戦いに至ったという力業。ぐちゃぐちゃだが一貫してる。タイトルからしてエッチ。御苦労。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「さあ来い・・・さあ、来いやあッ!!」とか「鉄肉」に迫られても実際問題としては逝けませんけど、影響受けて逝ったと思われる方が業界に大勢いらっしゃるのが容易に窺い知れるところが凄いし、思想的にはやはりその気にさせられるから驚く。クローネンバーグ(『クラッシュ』)とか、あの辺の方々。普通の人間なら作ってる途中で馬鹿馬鹿しくなり放棄しそうなものを。つくづく確信は創造の母だと思う。

都市に女は不在なのか。貫く者(破壊者=男性)と貫かれる者(受容者=女性)という二項対立はいわゆる「フェミニスト」の嫌悪を呼びそうだが、女に貫かれ犯される妄想(現実?) シークエンスの女性的なメイクアップの田口の顔面、大槻ケンヂみたいな塚本の中性的メイクと同性愛的な画面が提示された時に、あらゆる境界が曖昧になる。「境界の破壊」というテーマで観ればこれまた分かりやすい一貫性。

今となっては食傷気味の手ブレカメラも、都市と一体化した「やつ」のどこまでもまとわりつく視線の焦燥を体現していて効果的だし、廃材の使い方の巧さは黒沢清が確かに受け継いでいる(それは単に「貧乏自主映画っぽい」という皮肉ではくくれない「センス」だ)。田口トモロヲのオーバーア クトもむきだしの焦燥とコメディの境界でつま先立ちする独特のスリル感がある。女の変な棒読み台詞、塚本の声質の異物感、意外なほど上手な構図もまた良い。ハッタリと 「押し」だけで誤魔化そうとしている訳ではない執念深い巧さが随所に光る。

「やつ」の目論見を後押しするような謎の医者と、対比して「やつ」を傷つける浮浪者の登場など、『カリスマ』的ハッタリ記号の配置も想像を喚起して良い。

・・・そして、どうやってもその意味をくみ取ることの出来ない、「やつ」のトレードマーク。どんな人間、どんな鉄でも「代入できる(取り込むこと のできる)エックス」なのか、いくら深読みしようとしても理解を跳ね返す「X」の底知れないハッタリ感にいとおしさを覚える。

まあ能書きはどうあれ、「体臭のする鉄」っていう画は観たことがない。思想の可視化の成否は別として、「発想」をむきだしのままに可視化されて、その画が面白ければそれでいいのだという気がする。あらゆる「発想」すら不在の映画達が見習うべきものがある。貴重な珍品。

「都市」とか言いながらほとんど住宅街と町工場なのも微笑ましくていい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)irodori 寒山拾得[*] けにろん[*]

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