コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] リンダ リンダ リンダ(2005/日)

体育館におけるぺ・ドゥナの、背景なしの一人芝居の美しさは無類。成瀬の遺作の構想を想わせる。続く扉の中を明かりで切り取った部室の演奏はミゾグチを更新。堂々の傑作邦画。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







件の一人芝居、制作側は冗談の一環のつもりだったとコメントしている。ぺ・ドゥナがこれをクライマックスにしてしまったと。すごい話である。

本作、帰国するソンを空港へ見送りに来たのは恵だけだった、という没になったラストが撮られているそうな。私はこの逸話が好きだ。友達のいないソンの、数日間だけのハレの日の輝きが輪郭をもって捉えられている。山下らしい毒がある。

しかし、メジャー映画としては本編で充分だとも思う。考えてしまうところだけれど。演奏そっちのけで挿入される豪雨のインサートは印象的だが、よく考えれば、バンドの演奏会にあんな大勢の人が押し掛けるのは、屋外の催しが取りやめになったから、という説明にもなっている。盛り上がっている連中は、自分たちの催しが中止になったのでやけっぱちなだけなのだ、という皮肉とも取れる。達者なものである。

笑ってください調の夢オチはいつもながら呆気にとられる体のものだが、そこでもソンと恵の外国語同士での交流という奇跡が美しく、冗談交じりに理想を仄めかすこの作品の色調を一貫させている。個人的にはりりィの登場が嬉しい。なお、どうにもおかしいのは続くタクシーで学校に乗りつける場面。あの豪雨なのだから、普通の運ちゃんなら庇の処まで送り届けるだろうに。

冒頭ほか、ちょこちょこ現れる映画部員の下手糞な学園祭紹介、これは山下らの自分たちへのオマージュに違いない。女子に翻弄されている情けない部員たちが初期の作風を想わせる。このようにして山下も向井も、この学園祭、及びメジャー作品に参加したに違いない。

トリュフォーは『華氏451』の焚書の場面に、自分たちの「カイエ・デュ・シネマ」もまた燃やされるショットを挿入している。我々はこれを発見して、この監督は本気だと知る。本作の自己経歴の引用もこれと似て、無償の突撃という主題への本気度を示していて清々しい。

昔、熱心に映画を観ていた頃は、キネ旬やイメージフォーラムよりも映芸が好きだった。確認すると本作、映芸の年間ベストワンである。マージナルの主題が評価されたのだろうが、やっぱり感化されているなあと呆れてしまった。この号、探してみよう。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] DSCH[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。