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[コメント] 一度も撃ってません(2019/日)

松田優作シンドロームの丸山昇一が手掛けたレクイエム。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まず、この映画が「忘れられたくない」というテーマであることを抑えておきたいと思います。 作家・石橋蓮司、ダンサー・桃井かおり、元検事・岸部一徳、主要人物の誰もが同じテーマを抱え、「忘れられたくない」ための「人生最後の悪あがき」とはっきり口に出します。 故・原田芳雄が看板のデザインをしたというバー「y」を巡るエピソードも同様です。

さて、次のピースとして、脚本・丸山昇一について考えてみましょう。 阪本順治とは『傷だらけの天使』(1997年)、『カメレオン』(2008年)、『行きずりの街』(2010年)でも仕事をしています。

私は丸山昇一を「松田優作に囚われた男」「松田優作症候群(シンドローム)」「なんなら自分が松田優作だと勘違いしている奴」と呼んでいます。 そのキャリアは「探偵物語」『処刑遊戯』『野獣死すべし』から始まり、その後も(「あぶない刑事」であろうが『いつかギラギラする日』であろうが)どこか松田優作の幻影を追っている気がするのです。

実際、阪本順治との仕事はそうでした(「傷天」はショーケンですが)。 『カメレオン』は元々松田優作を想定して書いたものをリライトした作品。プロデューサーは黒澤満。そりゃもう「探偵物語」『最も危険な遊戯』『野獣死すべし』辺りでプロデューサーとして一本立ちできた人物。その恩返しなのか松田優作監督作『ア・ホーマンス』のプロデュースもします(もちろん丸山昇一も『ア・ホーマンス』の脚本に加わっている)。

この『カメレオン』が満足だったのか不満だったのか分かりませんが、『行きずりの街』では同じく黒澤満製作、丸山昇一脚本に加えて、撮影に仙元誠三を持ってきます。 仙元誠三は日本を代表する撮影監督の一人ですが、『殺人遊戯』『処刑遊戯』『蘇える金狼』『野獣死すべし』『ヨコハマBJブルース』と、村川透監督の下、アクションスター松田優作を作り上げるのに一役買っているのです(もちろん『ア・ホーマンス』では撮影で参加している)。

そんな黒澤満が2018年に亡くなります。 翌19年は、1989年に松田優作が死んでちょうど30年にあたりました。 もしかすると、この『一度も撃ってません』はそのレクイエム企画だったのかもしれません。 さらに偶然ですが、この映画の完成直前(直後?)の2020年3月に仙元誠三も他界します。

そう考えると、冒頭に書いた「忘れられたくない」というテーマが重みを持ってきます。 おそらく丸山昇一は、自分たちの時代が終わりつつあることを肌で感じているのでしょう。 (もっとも、阪本順治(61)はまだその境地じゃないと思いますけどね)

カメレオン』では藤原竜也で、『行きずりの街』では仲村トオルで「松田優作再生」を試みた結果、21世紀とは思えない「古(いにしえ)の価値観」に飯を噴き出す始末でした。 しかしやっと丸山昇一も自分たちの時代が終わりつつあることを感じたことで、

「ハードボイルドに憧れてたけど『一度も撃ってません』」 =「松田優作に憧れてたけど自分は松田優作じゃなかった」

ことに気付いたのかもしれません。

あ、企画は阪本順治だ。

(20.07.12 TOHOシネマズ日本橋にて鑑賞)

(評価:★4)

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