[コメント] シティ・オブ・ゴッド(2002/ブラジル=仏=米)
例えば映画を観ていて、主人公が身を翻して弾丸を避けたり、グラサンにスーツ姿の男が100人出てきたりすると「ああ、これはフィクションなのだ」と安心して登場人物の殺し殺されを眺めることができる。ところが「これは実話です」というエクスキューズが入ると、にわかに身構えて「真実にカツモク!」とばかりマジメに観なければならないような気になってしまう。
この映画の冒頭、ニワトリ追跡シーンの演出は実に鮮烈である。そしてその一連のシーンを締めくくるのは有名な『マトリックス』風のカットである。うーん、なんともカッコいい仕上がりだ。
そしてこのシーンだけでなく、オンボロ車のリアガラスに貼り付いて女が涙を流すシーンにしても、水たまりに月明かりが反射する俯瞰のロングショットにしても、『シティ・オブ・ゴッド』の演出・編集は実にカッコがいい。ケレン味に溢れたスクリーンの映像は常時ウキウキワクワクで、音楽はノリノリである。この映画はまさに映画的な快感に満ちているのだ。
これが、実に困ってしまった。
何しろこの「神の街」の物語は私たちが生きている地球上で実際に起きている話であり、そこでは子供と子供が殺し合っているのだということを映画は切々と語りかける。この現状は、ウキウキワクワクしながら眺めて良いものではないだろう。間違っても「それいけ殺っちまえ!」なんて言えたもんじゃないし、「その痛み、共感しました!」などと言おうものなら彼らは躊躇なく私に向けて引き金を引くに違いない。
この、ソリッドな演出とシビアな物語とのミスマッチが、観ていて非常に居心地が悪かった。これだけ「スゲーカッコいい映画」を作っておいて「スゲーカッコよかった」と気軽に言えない映画『シティ・オブ・ゴッド』。「悲しい映画は悲しく撮れ」なんて、そんな単純な話じゃないんだろうけれど、個人的にはどうにも好きになれない作品で、「うーん、★5に限りなく近い★3」などとわけの解らないことを書いてお茶を濁すしかないのである。
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