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[コメント] 奇跡の海(1996/デンマーク=スウェーデン=仏=オランダ=ノルウェー=アイスランド)

 私はいつのまにか巻き込まれていたらしい。でも、そんなの望んじゃいないよ。
にくじゃが

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この話の元ネタは「アブラハムとイサク」か?そういうことにしておこう。そうすると、ベスはアブラハムで、ヤンはイサクか?そういうことにしておこう。

 彼女の行い、毎日お祈りする、掃除する。ま、カミサマ側から見ればいいことなんでしょうな。彼女の最初のお願いは無邪気なものだった。彼女はヤンを授かる。彼女はヤンと初めてとても直接的な交渉を持つ。この関係は彼女のカミサマとは永遠に持ち得ないものだ。セックスの悦び。楽しかったらしい。

 彼女の二番目のお願いはカミサマの方を向いていない。「祈りが先立ち、カミサマに少しだけお願いをする」のではなくて、「お願いが先に立ち、そうしてくれたらもっと神様を信仰するんだけどなあ、とカミサマと取り引きするような感じ」だ。ここではもうカミサマは彼女が見上げてお願いするような対象ではない。強いて言うならば上目遣いでおねだりだ。彼女にとってカミサマの地位は相対的に下落した。彼女が愛しているのはもはやカミサマではなくてヤンだ。

 彼女はアブラハムにはなれなかった。彼女はヤンを捧げることを拒んだ。これはカミサマへの反抗、カミサマが離れる第一歩だね。彼女にとっては「カミサマが使わされたもの=神の使い=カミサマ」。息子ではなく、恋人。カミサマから預かった存在を育て上げることで義務を尽くすんじゃない、もうそこにカミサマが作り上げた人格が備わっている。「善なるカミサマが、もう完成した状態で使わしたもの」彼女はこれをカミサマの似姿と思ったのか。「私から彼を取り上げないで」カミサマ確かにヤンを返してやった。お願い聞いてあげたみたいね。

 彼女にとってヤンの言葉は神のお告げ。直接的に言葉を聞ける、彼女のカミサマ。二つのカミサマが一緒にいるのなら、そりゃあ誰だって声が大きくてはっきり見える方を選ぶだろう。彼女にとっては二人のカミサマは同じだった。どっちかというとより近くにいるヤンの方が高い位置にいるカミサマだったろう。カミサマとは「心の交信(通じてるかは知らん)」だったけれど、ヤンとは「身体の交信」。跪き手を組んで祈りの言葉を唱えるのがカミサマへの祈りとするなら、ヤンへの祈りはセックスだった。彼女は祈る。祈りは通じない。だって彼女が信仰しているものは「唯一ではないカミサマ」であったから。アブラハムになれず、それどころか唯一のカミサマを信仰しなくなった彼女。カミサマ、彼女から離れる。教会へ入ることすら拒まれる。村人に、カミサマが造って配置した村人に。

 で、奇跡が起きたらしい。なんの脈絡もない出来事の連なり。カミサマに見捨てられたはずのベスの願いが叶ったらしい。前後の作用をまったく無視する超自然的出来事が起こった。こりゃあ、奇跡よな。彼女に残されたもうひとつのカミサマ、ヤンが奇跡を起こしたのか?うっそお!それで自分だけ助かるの?なんだよそれぇ! 

 なんだかわからないままエンディング。微笑むヤン。そしてなによこれ?私の目の前に雲と大きな鐘があって、それが打ち鳴らされている。これを鳴らしたのは私か?私がベスの「唯一ではない」カミサマだったのか?ベスから「唯一のカミサマ」は去って行っちゃったけど、まだ観客が映画の前に残されていて、奇跡を起こすことができるってか?私が唯一でないカミサマの正体なら、私、ヤンか?あんな行為をさせたのも、私だってのか?あたしゃ、そんなの望んじゃいないよ。この話を作ったのは、彼女にあんな事をさせたのはカントク、あんたでしょうが!私を共犯関係におかないで欲しいよ。この映画を最後まで観たって事では共犯ということになるのかもしれないけれど、最後にあんなの取っておくなんて反則だよ。責任転嫁するなあ!

 でも☆3に止めたのは、トリアーの狙いが「ここで共犯意識を持たせて観客の心を+でも-でもとにかく揺さぶること」にあるとするならば、まんまと引っかかってしまった、と思うから。悔しい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)dappene ゑぎ[*] ALPACA[*]

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