コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] コントラクト・キラー(1990/フィンランド=スウェーデン)

キートン『ハード・ラック』から始めて話は脱線を繰り返し最後に元に戻る(含『ハード・ラック』のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ハード・ラック』も自殺志願者がなかなか死ねない話だった。本作、すっとぼけのジャン・ピエール・レオーはこのキートンを想起させずにおかない。ここから始めてラスト、暗殺者のケネス・コリーに眼前で自殺され、タクシーに寸での処で轢かれない。やはりレオーは死ねないのだった。このとき初期衝動の動機がすでにすっかり失われている処に、この監督らしい含蓄がある。

脱線は何度あっただろう。パブでの飲酒喫煙と恋人との出逢い、商談撤回しようと行ったら廃墟だったアジト、跡つけられた引越し、暗殺者の生活詳述、顔見知りのギャングの銀行強盗への巻き込まれ、等々。間延びした話法に独自性のあるカウリスマキにしてこの畳み込みは珍しかろうし、これがとても巧くハマっている。

本作も移民映画の側面が琴線に触れる。なんでフランスを去ったのか問われてレオー「みんなに嫌われたから」。ジョークめかして身も蓋もないが、故郷を去る者にはそういう要因もあるに違いない。故郷を捨てるのかと問われてマージ・クラーク「労働者階級に故郷なんかないわ」。

スコセッシの『アフター・アワーズ』もちょっと想起させられるが、ナンセンスだけで収めない処にこの監督の美風があるのだろう。自殺の初期衝動などすっかり忘れて最後は地球の裏側で中国人と結婚して戻ってくる、というキートンのぶっ飛んだ横滑りの激しさと比べると、とても律儀。全然別物の映画になっている。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)ゑぎ[*] 3819695[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。