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[コメント] 東京ゴッドファーザーズ(2003/日)

宮崎駿監督は“生(なま)の感触”と言うものに大変こだわっているが、実際の話、彼の監督作品には、その割に希薄に思える。しかし今敏監督作品には確かに“生”がある。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 正直、“衝撃”。

 こんなもんアニメで観せられるとは思わなんだ。素材としては実写でやっても面白かったかも知れないけど、これがアニメだからこそ、本当に面白くなるんだ。

 構成が巧いこと巧いこと。90分という時間を完全にコントロールしているので、笑いあり、ほろりとさせるところあり、本気で考えさせられるところあり、とても盛りだくさんな内容をしっかり演出している。伏線を一切無駄にせず、しっかり消化してるのも良い。

 物語は一人の赤ん坊を巡ってのロード・ムービーなんだが、本当に悪い人間は殆どおらず、心に傷を持つものばかりが、互いを気遣う気持ちがビンビンに伝わってくる。日本では失われたと言われている人情って奴が、こんなところで見られるとはねえ。

 この作品の主題は私なりには、やっぱり「プレゼント」だと思う。ゴミ山に捨てられ、死にかけてた清子にとって、この三人に拾われたから命が助かった。命こそが最大のプレゼントだった。ギン、ハナ、ミユキの三人にとっては、清子を拾ったがために、今まで避け続けていた自分の家族について認識を新たにされる。そして自分のいるべき場所を見つけていく。彼らにとって、自分が“必要とされている”という事実こそがなによりのプレゼントとなった(ラストの宝くじはちょっとやり過ぎっぽかったけど)。彼らは全員命の危機に曝されるが、それぞれの“いるべき場所”と清子の“幸運”のお陰で命まで助かる。更に言えば、清子の里親だって彼らに関わったがために生きる勇気が与えられたのだし、ギンの娘清子、ゲイ・バーのマダム、それにミユキの父親だって、そのお陰で失ったものを取り戻すことが出来た。それに彼らに関わっている人間の殆どは何らかのプレゼントを受け取っている。見事なハッピーエンドだ。

 一方、真剣に考えさせられる部分もかなりあったんだよな。いくつかあるけど、一番キたのは、命の大切さを知るからこそ、死と言うものをきちんと捉えている主人公達に対し、死そのものをゲーム感覚でもてあそぶ人間も同時に存在すると言うこと。彼らに罪悪感はないし、感覚としてはむしろ私はそっちの方に近いのかと思った瞬間、ぞっとした。

 ストーリーに関してはそれで良いけど、私が何より評価したいのは街のリアルさ。本当の東京の景色をトレースしたかのような光景。しかも殆どが下から見上げる形の、実際の視線を元にしているのが面白い。路地の汚らしさや、無機質なコンクリートの描写、そしてネオンの毒々しさまでアニメで表現されるとは、見事だ。臭いを表現してくれたのも私にとっては評価高い。アニメはそう言うのをなるだけオミットすることで出来上がっていたのだが、敢えてそれを見せつけようとするところが何よりの驚きだった。オープニング部分のスタッフロールの凝り方も嬉しい。 

 映画を観る際、あまり声が出ることはないけど、この作品に関しては本当に笑えるところでは大笑いしたし、驚いたところでは「おお!」と声を出し、感心したところでは「ほう」と声が出た。私にとっては珍しいことだったけど、それを許す雰囲気がこの映画にはあるんだよな。実際、周りの人間もみんな声を上げてたし。

 映画観終えて、これだけニコニコできたのも久々のことだ。良い作品観せてもらった。

(評価:★5)

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