[コメント] 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(1964/英)
性的欲求不満と疑心に端を発する錯誤の連鎖に収拾がつかなくなる様が最高。キーはコミュニケーション不全。双方向会話は完膚無きまでに機能不全(「暗号」というモチーフが完璧)。調停者たらんとする禿頭米大統領の猫なで声の無力感と可笑しさ。不能コミュを尻目に、爆撃機の「交尾」や「発射」、「体液」などの性的一方通行的モチーフばかりが雄弁に成立(屹立!)し、諧謔王キューブリックの絶技と冷笑が炸裂する。先生ありがとう。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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「博士」が破壊に寄せる「愛情」はさほど「奇妙」ではないものの、「総統、歩けます!」(脳内変換→「総統、立てました!」→「総統、勃ちました!」)と快哉を叫ぶセラーズの声の裏返りが狂気の定点突破を告げる。この禍々しい笑いが、息つく暇もないカタストロフ釣瓶打ちにつながるカッティングのキレ。この黒いカタルシスは空前絶後。
この映画は全てが面白いが、とりわけ「音」が好きだ。セラーズをはじめとする俳優の声質や冒頭・終幕の劇伴はもちろん、ラジオの軽音楽と機銃の乱射音、爆弾投下時の一瞬の静寂がもたらす痙攣的な笑いが素晴らしい。
「システム」への「ヒト」の依存性、崩壊と禁断症状といった関係性を狂気と諧謔的な笑いに包んで提示する手法についても、先生の作品群の中でも特に分かりやすく、世界観と作劇の融和に曇りが一点もない。紛れもない天才の所業。
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