[コメント] エレファント(2003/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
映画はよく短縮の芸術と言われる。
映画では、実際の時間の流れに対し、ストーリーの時間の流れはずっと早く、大抵短くて数日、長ければ人の一生位の長い時間の流れを編集という技術を使って2時間前後の枠の中に収める。この長い時間をどの様に上手く短縮化するか、つまりは編集力が、映画監督の才能の見せ所である。映画においては、監督こそが時を司る神であると言っても過言ではない。
しかしながら、本作『エレファント』には、短縮の芸術という言葉が全く当てはまらない。この映画は編集による時間短縮が殆どされておらず、カット割というものも殆ど無い。カメラはどこまでも滑らかに人物を追っていく。実際の時間と映画の時間は限りなく同じに近いと思われる。いや、途中スローや繰り返しが入ったりするのを考慮すれば、映画の時間の方が実時間よりも遅いかもしれない。
普通、そんなスリム化されていない間延びした映像を延々と見せられたら、観客は退屈で仕方が無いものだ。私自身、過去に、「おい、もう少し編集しろよ」と欠伸をしながら苦痛に耐えながら観た映画は少なくない。
ところが、本作に限っては、同じ様な映像が続くのに、全く飽きることがなかった。映画が始まってから、80分間強、映像の持つ美しさに惹き込まれ、あっという間に終わってしまったのだ。その間、私の眼はスクリーンに釘付けだった。
カメラはひたすら人物を追い続ける。その人物が誰かと出逢い、1つのドラマが展開する。カメラは途切れず滑らかに回り続ける。別れ際、人から人へバトンタッチする様にカメラは次の人物を追い始める。最初から最後まで、このスムーズなバトンタッチが何度も行われ、途切れることなくドラマが展開していく。
ワンカットは最低でも数分。淀み無く流れるカメラは全くと言って良いほどブレが無く、捉えた絵の構図はどれも美しく、芸術点は満点だ。
ただ、この美しい映像の裏には、相当な苦労があったはずだ。当然、カメラが回っている間は、俳優はNGを出せないし、撮影する側もミスはできない。おそらく、相当綿密な計算のもとに撮ったのだろうと思うが、設計図通りに撮れたとしても、ここまで綺麗な絵を撮れたのは奇跡に近いと思う。
それができたのは、やはりガス・ヴァン・サントの情熱による部分が大きいと思う。だから、全体的にはゆっくりした映像なのに、息を飲むような緊張感と圧倒されるようなエネルギーを感じたのかもしれない。
細部を観ると編集も見事だ。殆ど編集の必要は無い様に思える映画だが、途中、一瞬スローになってから、カメラを方向転換させて、もとに戻したり、同じ場面を間に挿入してシーンを想起させるなど、効果的な編集技術の使い方が実に上手い。本作はカンヌ国際映画祭で、パルム・ドールと監督賞のW受賞をしたそうだが、私は撮影賞が最も相応しいように思う。
さて、ここまで映像の凄さについて述べてきたが、肝心の映画のストーリーはというと、正直言って、あんまり何も感じなかったというのが率直な感想である。映像が凄すぎて、少年の暴力性やいじめという問題については、考える余地が無かったためかもしれない。
そう考えると、メッセージをこめようとした監督の意図は完全に失敗しているのかもしれない。
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