[コメント] CASSHERN(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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宇多田ヒカルの「トラヴェリング」のPVは好きだった。(自分の好みが大きいが)映像センスがあるなあと感心した。若干30代半ばの元ファッションフォトグラファーの彼がここまでやったことを考えると驚異だ。
一番の問題は脚本。それはもうここのコメンテーターの皆さんからも散々言い尽くされてきた。説明説明説明。まあ、確かにやけに気になる台詞は多い。しかし、それよりもブライの人間への恨みや確執がつくられる課程を大幅に端折ったことが大きな敗因だと私は思っている。それが作品への牽引力を徹底的に弱くしている。
私はアニメを観ていない。彼が人間を憎んでいるのは彼の口から発せられる「説明」でかろうじてわかる。それでもブライが「初めて」語る台詞が「饒舌な理屈」なのは痛いし、その時点で既に自分の使命を全て認識しているのもなんともはや。2時間20分もかけて、その上説明台詞も多いのに何回「そこを端折っちゃダメでしょ」と言いたくなったか知れない。加えて、きっと監督が一番見せたかったのはラストの人々の幸せな光景だと思われるが、それが活きるのはそれぞれの人々の苦渋や悩み、哀しさがちゃんと観客に伝わってこそなのだ。そういう一番の肝を端折っちゃどんな説明を積み重ねたって観客の心には何も届かない。届くはずもない。思うに、ブライの復讐の決心のシーンでおいてけぼりを食らった観客は多いのではないか。実際、私もあの場面をきっかけについていくのがやっとであり、感動を熟成する暇などなかった。監督の脳内はすごい勢いで時間が流れていたのだろう。観客の存在は肝心なシーンに限って忘れられ、監督の中だけで辻褄が合ってる、そんな気がした。緩急がめちゃくちゃで見せるべきシーンをすっとばし、見せなくてもいい部分がやたら長かったからだ。
でも。
細部までに手を入れた映像、わざとキッチュにした造型物、アニメっぽい描写、役者の立ち位置を考え(シンメを意識し)た構図。そして、重鎮から若手まで多彩な役者を配した人脈、企画力。評価できる部分も数多いし、心意気は大いに感じ入った。ラストの夢のような風景は私は好きだし、モノローグも結構心に染みる。それを2004年末話題沸騰の実写悪魔?よりも4億も下回る予算で作り上げたのはかなりスゴイ(比較論になっちゃうけど)。
映画は構成と脚本が命。こういう作品を観ると痛感する。でも、この作品だけで彼が干されてはもったいない。是非彼はベストパートナーとなる脚本家を見つけるべきだ。いい脚本家にさえ出会えれば、きっと良い作品が作れると思う。映像センスが図抜けているっていうのは大きな武器なんだから。
・・・・・編集の勉強もしましょうね。
※おまけ:伊勢谷クン、黄泉がえりのときも「希に見るほど滑舌の悪い人だなあ」と思っていた。それさえ直ればいい役者になると思う。なにしろ彼、黙っていれば美形。でも今回、必死な表情をしているとき、トータス松本にしか見えなかったんです。<これが書きたくて修正しました。ごめんなさい。
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