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[コメント] シルミド/SILMIDO(2003/韓国)

闇との闘い。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







シルミド(シルミ島)の訓練生にとって「闇」とはすなわち、倒すべき標的「金日成」であった。闇を葬った時が「夜明け」だったのである。ところが、政治状況の変化により暗殺計画は白紙となる。 標的を失った時、シルミドは「闇」に包まれる。 後に彼らが、赤く染まった旗に死んだ兵士を巻く・・・、との共産軍の軍歌を歌うのは、そこには「闇」ではない確かな「リアリティ(現実)」、「闇に葬られない死」が存在したからではないだろうか? 

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ごろつきを秘密工作員にするという発想は、スパイものの映画ではよくある設定だが、実は、太古はギリシャのスパルタ、近くは戦国時代の日本の間者に代表され、歴史的にその実戦的効果が証明された戦術である。特に古代スパルタでは泥棒は捕まれば死刑となるほど俊敏さが要求される命懸けの犯罪なので、これ以上のない訓練とされ「公」に奨励されてきた。これすなわち、スパルタ教育の一端な訳だが、訓練生の存在を「公」にこそしていないが、見つかれば死ぬ覚悟で島を抜け出した2人に象徴されるように、シルミドの訓練はまさにこれに当たると言えるだろう。また本作の構成は、信玄の影武者になる条件で死罪から免れた元死刑囚を描いた黒澤明の『影武者』と比較しても、時代の遷り変わりと影の宿命を描いているようで類似点が多い。

一方、蓋を開けてみると、厳しい教官が部下思いで、優しい教官が自己中心という設定は、世界的な不況でリストラ溢れる昨今の企業体質を反映したものと言えまいか? 厳しかった憎まれ上司ほど身を挺して部下のリストラに反対するものである。 憎まれ者ほど会社の社会的危機にマスコミの矢面に立つものである。 そこに至って人の本質が見えてくる。

このように本作は旧体制と新体制の狭間を描いた物語である。狭間の戦略にあってはよくある事なのかもしれないが、彼らの「存在」を否定することほど残酷な仕打ちはなく、否定されることほど耐え難いことはないだろう。 暗闇でのサバイバル訓練を受けたにもかかわらず、白昼堂々と大統領官邸に向かうメンバー。彼らが正面突破を目指したのは何故か?まさかこのまま辿り着くとは思ってもいなかったことだろう。死に場だけでも陽に当たりたかったのではないだろうか?

ところでこの道中、1972年当時にあってはならないものが一つ写されていた。それはソウルの路面に擦れながら残るブルーライン(1988年のソウルオリンピックのマラソンコースを示すライン)。紛れもなくソウルで撮影されていることは判るが、スタッフは誰も気がつかなかったのだろうか? クライマックスであることと、時代性を考える上で重要なポイントだと思うのだが・・・、なんとも残念である。 もしかしたら、その後の南北朝鮮事情、すなわち南北朝鮮融和を主目的の一つとしながら誘致し(この意味で)失敗に終わったソウルオリンピック(南北融和)への「消えかかった道のり」、もしくは「2003年、今尚消えずに残る南北融和の道しるべ」を意味していたのかもしれないが・・・。

(評価:★4)

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