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[コメント] お父さんのバックドロップ(2004/日)

父親よりも子供に感情移入して見てしまった。それほどに息子の神木隆之介の存在は素晴らしい。彼の心の葛藤が、いつまでも関西に染まらない彼の言葉遣いとともに、胸に響いてくる。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







少年には皆と違う父親をもった「不幸」がある。彼にはその世代に見合ったプライドがあり、それは関西人の親友を持ちながらも、標準語を頑として話し続ける態度からも容易に見てとれる。

自分はというと「お父さん」でも「プロレスラー」でもない。だから世代は父のほうに近くとも、少年の心に近い自分を感じとれる。自分の父はサラリーマンだったから、彼のような父親に関する悩みはなかった。でも、父の転勤で地方に住んだ三年間は、依怙地になって標準語を喋り続けた。ちょうど一雄の年頃のことだから、彼の気持ちは痛いほど判る。だから親友を裏切りに引き込み、笑いものにした悪童への凶器攻撃は自分もやりかけたことだし、そして笑いものにされたもう一つの要因…見世物に過ぎないドサ回りプロレスラーの父へのやるせない気持ちも誰より判るような気がするのだ。その父が自分のために、空手チャンピオンとの異種格闘技戦に挑む。これで彼は父親を許せるだろうか、亡母のよき夫でなかった、そして自分のよき父親でなかった男を?…そんなふうに本当に心配になったのだ。これは「お父さん」が「バックドロップ」を炸裂させるベタな泣かせ話であると知りながら、である。だから、彼が父を誇るに至った瞬間は珍しく涙腺が緩んだ。と同時に、ストレートに子供への思いを叫ぶことのできた父を、少年の意識に戻った自分はひどく羨ましく感じた。

1980年。すでに自分が高校生になっていた時期に一雄はよどみなく関西弁を話し、裏切った友達との仲をもとに戻していた。まだ彼は子供であり、父の誇りを自分のものと成していたからだ。今、自分の到達し得なかった高みに達した彼から離れた自分にできることがあるとしたら、バックドロップをぶちかますことしかない。せめて、自分を語る子供たちが誇れるような一撃を死ぬまでに放っておきたいと思っている。

いい加減作品のなかに入り浸るのは止しておくが、少年を演じた神木はここ十年くらいの子役のなかでも至宝といっていい存在だ。大阪弁のキレがいい田中優貴も有望株である。彼らの支えなしに、この作品は成り立ち得なかったといっていいだろう。

cobaの音楽も絶品であったことを付記しておこう。

(評価:★4)

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