[コメント] 隠し剣 鬼の爪(2004/日)
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『たそがれ清兵衛』においても本作でも、武士はあくまで藩という組織の中で動くサラリーマンであることが強調される。組織の基本は組織内の規律を乱さぬこと。ゆえにこれらの作品に出てくる武士は訓練以外の場面で刀を抜くことはほとんどなく、あくまで組織が自己保存するための最終手段として命令系統に基づき刀が使用される。サムライ映画に慣れた向きからすると違和感をおぼえるかもしれないが、剣の達人は藩という組織の中にあっては必ずしも重用されるわけではなく、現に主人公はなかなかの剣術の使い手でも一度組織に見放された家柄ゆえに冷遇されている。
こうした組織の中で暗殺という組織の屋台骨を揺るがす手段は、実際に使われることはあっても、建前としては一番あってはならないことと位置づけられるはずである。また、通常暗殺は武士ではなく忍びの者が使う手段であり、忍びの者が真正面から厚遇を受けることはありえず彼らは日陰者としてしか存在しえない。いやしくも暗殺剣はエリートたる武士が使うものではないのだ。おそらくかつて暗殺剣を用いたがゆえに武士の身分を辞した田中泯(相変わらずずばぬけた存在感!)は、武士としてエリート街道を歩む小澤征悦ではなく、呪われた過去ゆえに武士として出世の道が閉ざされた永瀬正敏にこそ、秘剣「鬼の爪」が必要になるときがくると判断したのではないだろうか。そして、闘いの後に「鬼の爪」は組織に向かって牙を向き、時を同じくして主人公は師匠同様武士の身分を辞することとなった。秘剣は永遠に秘められたまま。
実に重厚な脚本や意匠だと思うのだが、肝心の暗殺の場面に至る経過の描写が端折りすぎというか、そこだけ(主人公の怒りを呼び込む要因だけ)安直な表現を用いたのが唯一悔やまれる。(★3.5)
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