[コメント] 忘れられた人々(1950/メキシコ)
この映画はフランスでは「彼らへの憐れみ」というタイトルが付けられているそうだが、それについてのブニュエルのコメントが素晴らしい。
…とても救いようがない。「神様、彼らを救い給え!」というようなものだ。想像もしてくれたまえ、いろいろな本の中で「彼らへの憐れみ」の監督、ブニュエルなんて言われるなんて。何という恥知らずなことだ。
とか言いつつ、撮影前に半年かけてスラムを歩き回ったり少年裁判所を訪ねたり、「当時のメキシコ映画のテーマである」という確固とした認識から、あえて冒頭に「…楽観的な態度を捨て、なによりも現実そのものを見つめることによって、この重大問題を如何に解決すべきか、それを有識者に訴えかけることが第一の目的だったのです」というメッセージを入れてしまったりするブニュエル。
この手加減なきヒサンさゆえにカンヌで受賞するまでは「有識者」にさんざん文句を言われたそうだが、その恨みや怒りを何年たってもつぶさに覚えている(らしかった)ブニュエル。
晩年になっても決してその反体制ぶりは変わらず、最後まで徹底的に人を煙にまき続けたブニュエル。真のアナーキストであったブニュエル。
ブニュエルにとって「映画は生きている」ものだったらしいが、それはブニュエルが「本当に生きている」人だったからではないだろうか。何の欺瞞も躊躇もなく。決して(批評家はおろか観客にさえ)こびることなく。
…映像を美しくするために探求したりはしない。もし出来上がりが美しいなら、もともと美しいのだ。
これもまた、ブニュエル翁のこの映画についての言葉。現実は、かくも醜く美しい。彼にとってのシュールとは、すなわち日常であったのだろう。
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