[コメント] 火火〈ひび〉(2004/日)
前半の窯と清子が一体化していくかのような緊張感と、後半の母と子が激しく抵抗を試みながらも淡々と死を受け入れていくさまに素直に感動する。高橋伴明監督の抑制の効いた演出と、激情的でありながら愛らしさを漂わせる田中裕子の好演の賜物。
「カタチのあるモノはいつか壊れる。壊れたら、また作ればいい。でも心が壊れたら、もう作りなおされへんやろ」。こんなちょっと気恥ずかしい言葉がストレートに心に響いてくる。それは、どこまでも自分の気持ちに正直にしか生きられない清子のちょっと傲慢で不器用な姿に、本当は私たちが憧れているからだ。
清子は強い女なのではない。心がピュアな女なのだ。今の世の中、強く生きることが喧伝され、もてはやされる。人間なんてそんな強いものではない。だから社会でも学校でも、回りの人間の顔色をうかがいながら生きるような関係が蔓延し、その息苦しさに圧倒されてしまうのだ。
強くは生きられないが、ピュアになら生きられるかもしれない。清子の生き様は、そう私たちに思わせてくれる。だってこんなお母さん、少し前まで日本中にいたじゃないか。今の私たち、モノは豊かかもしれないが、心が痩せてしまっているのだ。
行き先が見えなくなったのなら、ブレーキを踏んでスピードを落とせばよい。一旦、立ち止り周りを見回せばよい。少し後戻りしてみたってかまわない。そうすれば、みんなもっと正直になれるかも知れない。田中裕子の姿に、そんなことを考えさられた。
これは彼女の代表作になるだろう。
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