コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] アビエイター(2004/米=日=独)

この楽しみは譲れない! パイオニアでエンジニアでパイロットでもあるヒューズの飛翔を描いた作品です。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







<<パイオニアとしてのヒューズ>>

ヒューズという名に私が最初に興味を持ったのは、10年ほど前、世に衛星通信、衛星放送の新時代の荒波が沸き立っていた頃だ。あの当時は60個以上もの人工衛星による世界どこでも(海上でも砂漠でも)通話可能な国際衛星電話(この事業は大失敗)や、数百チャンネルからなる衛星放送会社が乱立しようとしいていた。 そんな衛星をどこで誰が造っている? と疑問を持ったときによく見た社名がアメリカの「ヒューズ社」だった(ちなみに日本の旧型気象衛星ひまわりもヒューズ社製)。

ご存知のとおり我が日本国では、つい先日、純国産の人工衛星のロケット打ち上げに遂に成功したばかりだ。相次いで純国産人工衛星の打ち上げに失敗していた日本としては、予算的にも対外的な信用面においても衛星ビジネス成立を賭けた最後の勝負といわれていた。

本作を観て良かった。あらためてヒューズの偉大さに敬服した。人工衛星などという途方もないビジネスを開拓し事業化するのは、失敗と損失を屁とも思わないヒューズのようなスケールの大きい先駆者が必要なのだろう。 ロケット、衛星放送など、映画と飛行機の延長線上に位置する衛星ビジネス。ヒューズのビジネスプランは、日本はもちろんアメリカのスケールをも超越している。

<<エンジニアとしてのヒューズ>>

仮にも一エンジニアの私として、ヒューズの目標にひたすら突っ走る姿に素に共感する。チーフエンジニアとの信頼関係がなんといってもいい。「なんで柱が必要なんだ。」「タブを全て引っ込めろ。」「最高スピードを目指すのだ。」 一旦、スタートすれば途中で投げ出さないヒューズ。ゴールがはっきりしていて気持ちがいい。

<<パイロットとしてのヒューズ>>

本作はヒューズが飛行機に乗るシーンが多かった。その飛行機1台1台の個性的なこと! その全てに心躍ったのはデカプリオの演技と演出の賜物であろう。とにかく躍動感溢れる飛翔はすごい。映像で描かれた飛翔としては『ライトスタッフ』のイェガー以来のスピリットを感じさせるものであった。

世界最高速度を記録した単葉機の記録会では、ヒューズは周囲の心配を余所に「こんな楽しみを人に譲れるかい?」とやる気満々。 しかし、ヒューズは偵察機のテスト飛行で墜落し瀕死の重傷を負ってしまう。チーフエンジニアがそんなヒューズに接した際に(容態に関することでなく)飛行機の事故原因から話し始めたのが印象的だ。

<<映画人としてのヒューズ>>

冒頭の飛行機に乗りながら自らカメラを構えるヒューズだけでも十分に私を捉えるものがあった。莫大な金と時間を費やし99%以上のフィルムが使われない「地獄の天使」。そこまでカットしても試写会後さらにカットを宣言するヒューズの姿勢は、飛行機のスリム化といい一貫している。

<<ヒューズを取り巻く人々>>

ラストの超巨大輸送機ハーキュリーズが飛び立つシーンは感動的だ。教授(イアン・ホルム)の顔。チーフエンジニアの顔。そしてヒューズの顔。そして迎える腹心(ジョン・C・レイリー)の顔。途方もない人だけど、いつも支えてくれる人がいるのはやはりヒューズの魅力だろう。

<<本作の演出>>

本作以外に莫大な遺産を残しつつ謎めいた死を遂げた人物を描いた作品といえば、『市民ケーン』を思い出すことだろう。本作との大きな違いは「市民ケーン」はケーン本人の主観が一切描かれていないことと、本作が主人公の人生全てでなく「半生」を描いたところだろう。

「市民ケーン」は“他人”の回想で成り立っている点、際立った作品となっているが、今まで見てきた限り、実話であろうとなかろうと(幼少期の記憶を挿入することはあっても)スコセッシ監督が演出に回想を用いることは稀である。登場人物を時間の流れに沿って描き、結末に明日への含みを持たせる監督であるように思う(本作ではヒューズのその後に触れていないが、それは随所に暗示されているし、彼が光り輝いていた頃を描いた映画だと私は理解している)。

本作では、そんなスコセッシ監督にあって(おそらく)珍しいことだろうが回想を効果的に挿入しているシーンがあった。それは、ピカピカに光る最初の飛行機が完成し、ヒューズが肌で感触を確かめた場面でのチーフエンジニアが複葉機の柱をハンマーでなぎ倒したシーンの回想である(飛行機作りはここから始った!)。 これはチーフエンジニアの主観と思われ、劇中で数少ない(ヒューズの主観ではない)シーンだったが、こういうのは物作りをする者にとってはたまらない演出である。

<<デカプリオ>>

今回のデカプリオは素晴らしかった。スコセッシ監督とのコラボ作品がここの所続くが、本作は2人の信頼関係が滲み出てくるようである。これからの展開に期待したい。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (5 人)IN4MATION[*] ナム太郎[*] ruru Keita[*] JKF[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。