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[コメント] 羅生門(1950/日)

静的なお白州と動的な森の中の対比でたっぷり一本撮った感が好ましい。ただ比べて羅生門は意外と地味。二階も覗かせてほしかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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お白州のショットはオヅなんだろうと思うと面白い。お能のような様式的な舞台はオヅよりオヅ的、静的なローアングル・ショットにアップやズームなど織り交ぜられるなか、静かな志村喬に始まり、京マチ子がよよと泣き崩れ、本間文子の巫女さんの粋なパフォーマンスに至る。一方の森の中の右往左往する動的な空間処理もまた優れており、この一対が本作の魅力のひとつだろう。比べると羅生門はもうひとつ面白くない。死屍累々の二階も科白だけじゃなく実際に覗かせてくれるべきではなかったか。これは状況説明として必要だったと思う。予算切れだったのか、舞台っぽさを重んじたのか。お白州のカンカン照りと森の木漏れ日と羅生門の豪雨の三対比は無論上等。こう書くと実に図式的だが、それぞれの画がそう云わせない。

間抜けな決闘における滑稽な三船敏郎の仕草もまた狂言の伝統を想起させる(彼の尻もちついて足バタバタはその後やり過ぎただろう)。森雅之のほうが殺陣が巧く見えるのが面白い。しかし本作、初めて太陽を直接キャメラが捉えたという伝説があるが、太陽映している映画なんて本作以前に幾らでもあると思うのだがどうなんだろう(吸血鬼映画とか。あれは月か。昔のキャメラじゃ写るまい。書割か)。早坂の音楽はいつも通り説明過剰で古臭いものだが、クライマックスにこれを省くのはとてもいい。

志村喬の告白謎解きは小説にはない橋本忍のオリジナルで、まあ原作の三者三様の見栄っ張りを反転させればこうなるのだが、そこまで語って嫌味にならず丁寧で、上手く嵌めるものだと思う。ラストの捨て子の付け足しも大衆的で個人的な好みでは穏当、芥川のシニックをあざといぐらいにしか思えない私には好ましく観れる(この点、突き抜けた『生きものの記録』は多分に芥川的で、ヒューマン・クロサワとのミスマッチがスリリング。本作にはこの面白さはない)。ただ、志村もまた検非違使に対して偽証の罪を犯している訳で、聖者の格好つけに終わっていないのはいいにしても、倫理観の欠如と取られても仕方ないだろう。ここは瑕疵として残った。

(評価:★4)

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