[コメント] 麦秋(1951/日)
小津安二郎のエッセンスが全て詰まった、ひとつの完成形。(reviewには小津監督他作品についての言及あり)[Video]
驚くべきことに、本作には小津監督がこの『麦秋』の後に撮ることになる作品のモチーフがほとんど含まれている。
老夫婦のくだりはまんま『東京物語』であるし、都落ちというテーマは『早春』に通じる(電車の通勤仲間が登場するという共通点もある)。2人の子どもたちのささやかな抵抗は『お早よう』で、お節介なセクハラ専務は『秋日和』の中年男トリオの原型とも読める。
もちろん、本作の後のこれらの作品が、アイディアの使い回しとか縮小再生産だというわけでは決してなく、個々のテーマをさらに深めて1本の完成した作品にそれぞれ仕上がっていることは明記しておかねばなるまいが、本作『麦秋』は、それらのテーマを全て使い、絶妙なまでに巧みに盛りあわせてあるところに面白さがある。
ただし、このような楽しみ方をするには、まず他の作品を一通り押さえてから本作を観るという順番でなければならず、その意味ではどちらかというと「小津ファン」向きの作品であると言えるかもしれない。
蛇足だが、本作は『晩春』と『東京物語』に挟まれた、いわゆる“紀子三部作”(いずれも原節子が「紀子」という役名で出演している)の真ん中の作品であり、その中で比べても原節子が一番輝いている作品だと感じた。本作が封切られた頃、小津監督と原が結婚するという噂が立っていたそうだが、事の真偽はさておき、これを観るとその噂も無理からぬことだと思えるのである。
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