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[コメント] ユナイテッド93(2006/仏=英=米)

間違いなく観る者に衝撃を与える映画である。問題はそれをどう受け取り、評価するか(又は解釈するか/解釈しないか)、である。☆4点。
死ぬまでシネマ

CinemaScape-映画批評空間-」の一コメンテータとしてこの映画に☆をつけるのに難渋した。この映画は間違いなく自分に強い衝撃をもたらした。ドキュメンタリーの手法は今までも多くの作品で挑戦されている。『プライベートライアン』のノルマンディー上陸戦が思い出されるが、それ以前の『史上最大の作戦』だって、同時進行する人間たちの行動を一つの事件(戦闘)の中で描こうとした処などに、この映画(『ユナイテッド93』)に共通する部分を感じるのだ。しかしこの映画は明らかに過去の映画ドラマの一手法としての セミドキュメンタリーを超えた地点での、いわば超ドキュメンタリー(ドキュ-ドラマともいうらしい)を確立した。映画の中に常にリアリティを求めてきた我々は、この映画に一つの完成形を見たのだ。この点でこの映画には☆5点の価値があるともいえる。

しかしながらこの映画を通して観客が何を考えるのか、この映画から観客は何を受け止めるのか、という点において、ドキュメンタリー手法を極めたが故に、この作品は酷く曖昧で不確定である。世間で日々起きる事実をどう受け止めるかはひとそれぞれによって異なる。映画を日々の出来事と同様に並べ出してしまっていいのだろうか。あの事件をどう受け止めるのか、あの事件がこの世界に何をもたらしたのか、という視点はこの映画にはない。それは或る意味「観客に何も提示していない」という事だ。映画が何かを提示し、それに対して個々の観客が反応する、という多様性より以前の場所に敢えて立っている。

sawa38さん・K-ta.さん・ハムさんの言いたい事は非常に良く解る。ねこすけさんやYasuさんのいう〈作家性〉についても重要だと思うのだ。押しつけがましい説教や、お追従・洗脳映画なんて観たくない。しかし我々この戦争と暴力の世界に生きている人間が、その悲劇の延長として起こったあの事件を描いた映画を観るのなら、そこから何らかの教訓があってもいいのではないだろうか。迫真性を礼賛して終わっている場合ではないのではなかろうか。「感動はない、なくていい(MMさん)」言いたい事は解るのだが…(ぼくの基準からすればぼくは凄まじく「感動」したのだけど)。ぼくはこの映画から色々具体的なことを考えた。でもこの状況ではそれが内容以前の段階で否定されてしまいそうで、広く伝えられるような文章にする自信がない。

… しかし同時に、一つの作品が全ての条件を満たす必要もないとも思う。この映画が到達した地点は確かに目を見張るほど見事なのだ。そしてぼくにとっての問題は、それを観た我々観客の方なのだ。

(評価:★4)

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