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[コメント] ユナイテッド93(2006/仏=英=米)

気が休まる瞬間もなく上映時間目一杯の緊張感が異常なテンションで続く。私の知る限り、このような異常体験は初めてである。誤解を恐れずに言えば、90分間の絶叫マシンである。
sawa:38

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作には「ドラマ」が無い。人物の背景も無く、起承転結も無く、映画作品にあるべきはずのテーマすら無い。これが「映画」と言えるのだろうか?

恐らくコレは「映画」ではないのだろう。擬似ドキュメンタリーの手法を使用する事で観客はそれぞれの現場へ放り込まれた。登場人物の背景が省略されているから、彼等登場人物には「主人公」も「脇役」も存在せず、現場へ放り込まれた観客が「主人公」に成らざるを得なくなる。

私は「K列11番」という座席を指定され満員の映画館で身動き出来ずにスクリーンを凝視するしかなかった。まるで93便のエコノミー席のような座席だった。

本作が描きだした「事実」が本当の「事実」なのかどうかは分からない。議論は別の次元の事として置いておきたい。ただ私は、混乱する真っ只中の管制塔の現場にいたし、恐怖が支配する93便の中にいた。

何も分からない状況下での「主人公」を追体験させられたのだ。

起承転結すらない追体験は「映画鑑賞」では無く、パニックと恐怖をひたすら追い求めたアトラクションであった。作品が唐突に終了した瞬間、私の隣の座席の女性客が深いため息を吐いた。まるで90分間息を止めていたかのような深いため息だった。私たち観客はシートベルトこそ無いもののまるで93便の座席のような硬いシートに座って恐怖を体験させられた。

映画作品としては様々な問題を指摘されるであろう本作。同時に事件と事実関係について大きな批判があるだろう本作。

しかし、意図的な背景を排除して「現場」を体験させようとした試みは大いに評価したい。これほどの事件の映画化に問題はつきものだ。それよりも誤解を恐れずに言えばアトラクションとしての出来を私は評価したいのだ。このような経験は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以来だろうか。「映画」としては問題があるだろうが、90分間という長時間の緊張感持続を強いられる生体実験とも呼ぶべきアトラクションとしては上出来ではなかろうか?

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)おーい粗茶[*] ナム太郎[*] らーふる当番[*] わっこ[*] しど[*] 狸の尻尾[*] MM[*] セント[*] Keita[*]

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