[コメント] 雨月物語(1953/日)
幻想へ。
リアリズムはつまらない。 ずっと僕はそう思う。リアリズムがつまらないのは、「リアル」を あまりに安易に信じてしまっているからだと思う。だから陳腐なリアリズムを切り抜けるには、リアリズムの徹底化か逆に幻想の世界にはいりこむか、 どちらかしかないと思う。
たとえば「赤線地帯」のような一見社会問題を扱っているような作品で さえ、溝口作品の魅力は、そこから抜け出してしまうような物語性、 幻想性にあると思う。そしてこの幻想性がもっともはっきり現れるのがこの 「雨月物語」かもしれない。
金であれ、侍の姿であれ、あるいは陶器であれ、着物であれ、 それらがあるという事実はすべて一種の幻想性と裏表である。 あるいは空間的変化、ここと違う場所はすべて幻想の体系なのであるから、 「運動」自体が幻想性と裏表といってもいい。(琵琶湖の場面)
ここでカメラはまさに物語空間たる昔 のうちで、ときおりこの幻想性へとスライドし、揺らいでいるのだ。
したがって、ここで二人の女性、若狭と宮木は幻想の二つの極と解釈 してもいいのかもしれない。
さまざまな幻想を旅した男が、もとの「幻想」に収まる、母体回帰幻想 のような映画といえばいえるかも、少なくとも説教じみた映画では ない。怖い映画です。
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