武士には、守るべき名誉、面目がある。それを踏みにじられた時、武士は自らの命を代償にしてもその名誉・面目を守りぬかねばならない。

主人公新之丞が、失明し職責を果たせず切腹を図ろうとしたのも、寝取られた妻を即座に離縁したのも、武士として決して譲れぬ一分を守りぬく為だ。それがたとえ最愛の妻との決別となるとしても、主人公はこの一分を貫かなければならないし、彼はそれをした。（なんと武士の気高く誇り高いことか！）

一方、加世にとっては、新之丞の為に自分の身がどうなってもかまわないと思い、辱めに耐え新之丞を守ろうとした。（新之丞を一途に思う気持ちに決して偽りはなく、それが結果として新之丞を裏切ってしまった事がいっそう哀れで悲しい）

新之丞も加世もお互いの気持ちが痛いほど判っているだけに観ている方もいたたまれぬ気持ちになった。この苦悩を晴らす唯一の方法は、加世の思いをもて遊んだ憎むべき悪党と戦うしかないことが、痛いほど伝わってきた。 クライマックスの決闘シーンは、こうした気持ちを背景に否が応でも主人公に感情移入 してしまった。 恨みを晴らし武士の誇りを回復した安堵感と、切なる夫婦の情愛を巧みな演出で回復したラストシーンは、思わす熱い気持ちがあふれてきた。

ps｡時節がら００７を観るか本作を観るか迷ったが本作を観て正解。心温まる余韻にひたり大満足でした。