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[コメント] アイ・アム・レジェンド(2007/米)

数々の絶望を見つめ、禍いを引き受けざるを得なかった男の悲劇。
浅草12階の幽霊

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「ほら、パパ、蝶々だよ」娘は禍いの最中にありながら、屈託なく遊ぶ。

そして彼は守られている筈だった最愛の妻と娘の死を目にし、それから時を経て、だれもいなくなったような街に、愛犬と供に生きていた。

昼、彼は生きるために食料を求め都市を探索する。有効なワクチンを作り出すため、実験動物としてマウス達を管理し、ついにはvirusに有効な可能性があるワクチンを人体実験するために、危険を冒して「感染者」を捕獲する。しかし「感染者」に投与したワクチンは効果の兆しを表さない。

昼、微かな希望とともに、「君はひとりじゃない」と、AMの短波放送にメッセージを発信する。

輝く日差しの中、数々の気晴らしに興じる主人公。

しかし、虚ろな都市のなか、彼の心もまた、絶望という病に蝕まれていたのではないだろうか。

昼、人が意図せず作りだしてしまったvirusに感染し、超人的な体力を得ながらも理性を失った人間たちは、かつて人々に収穫の幸いをもたらした陽の光に耐えられなくなっていた。彼らは食料を得るため群れを成し、都市の暗がりのなかで寄り添い夜を待つ。

彼に不幸はさらに降り掛かる。「感染者」たちに、自分が仕掛けたトラップを模倣され、彼は罠にかかり身動きがとれなくなる。やがて夕がおとずれ陽が隠れたその時、一斉に「感染したものたち」に襲撃される。彼は辛うじて状況を切り抜けるが、「言葉を理解できなかったがゆえに」、愛犬は死に至る。

最後の伴侶を失いこれまでの禍を受け止めきれず、彼は「自殺行為」に出る。待ち受けていた感染者達は「まるで人のように獣のように」賢く、狂い、襲いかかる。 しかし「神の計画」どおりなのか、そこで希望を捨てず旅を続けてきた同胞に救出される。彼は生きながらえる。彼は理性を保つ正常な人間と、再び出会う。

理性。まぶしい程の希望。

然して絶望に蝕まれた彼は、同胞が説く「神の計画」、希望さえ受け入れる事ができなくなってしまっていた。彼もまた闇に侵されていた。 そして感染者達に、ついに彼は隠れ家に侵入を許してしまう。屈強な獣と化した感染者達との争いの渦中、ワクチンが有効であったことを確認した彼は、瞬間、啓示を見る。

「ほら、パパ、蝶々だよ」これも神の計画なのか。

彼は、同胞に希望の血清を託し、「言葉を理解できなくなってしまったケダモノである感染者たち」とともに、運命を供にする。

彼はそのとき、絶望とともに、すべてを愛していたのかもしれない。

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あきれる程に量産されてきた「ゾンビもの」な物語でありながら、スリルやホラーのみに堕すること無く、物語を主人公の心情を丁寧に描写していた点を評価したいと思います。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)おーい粗茶[*] りかちゅ[*] てれぐのしす[*] サイモン64[*]

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