[コメント] ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007/米)
役者から芝居を引き出す、力強い画面をフィルムに焼き付ける、牽引力のある物語を構築する。今作においてPTAはそれらの能力を端的に証明したと思う。だが、観客は常に作り手の背後にあり、彼のビンタは私の頬を張らない。
うーん。すこぶる出来のいい映画なのだろうけれど、なんだか寂しい思いがした。
石油と宗教のお話というのは現代においてまさしく世界のド真ん中な話題であり、ああ、P・T・アンダーソンでさえそういう映画を作らなければならないほどアメリカという国は苦しんでいるのだなぁと感じることはできた。この映画における矛先は常に「向こう側」へ向けられていて、勇敢にもケンカ両成敗に赴くPTAを背後から傍観しているような、そんな心持ちでスクリーンを眺めた。それでも2時間40分という長尺を飽きさせないのだから豪腕というほかないけれど、私にとっては終始他人事でしかなかったし、おそらくはPTAにとっても、彼の暮らす社会の問題ではあっても彼自身の問題ではなかったように思う。
作家は何のために映画をつくるのだろう。5年ぶりの新作は、彼の進歩を、成長を示したのだろうか。彼はもう、青臭いロクデナシのための歌なんか歌うつもりはないのだろうか。これをやらなければ、もう一歩たりとも前に進めないということなのだろうか。
この寂しさは、そうだ、わかりやすい例えを思いついた。これは、伊集院光がオモシロを垂れ流しながら必死に自身と格闘していたはずの深夜ラジオで、いきなり都知事選への出馬を表明してしまったような、そんな感じだ。あー、わかりにくい。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (5 人) | [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。