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[コメント] 007 慰めの報酬(2008/英)

描写としてではなく、物語として有無を言わさぬという点でこのボンドは度を越して暴力的だ。その暴力の根拠が、巨悪に向けられた正義の暴走なのか、女をめぐる悔悟と怨念のなせる技なのかが見えない。理屈の喪失は、確信的なようでもあるし演出ミスにも思える。
ぽんしゅう

かつての東西冷戦下のボンドたちのように悪に立ち向かう洒脱なスパイではもちろんなく、かといってサム・ペキンパー作品にでてくるような怨念漂う復讐者でもなさそうだ。さらに言えば、『ノー・カントリー』(07)の殺し屋シガーや、『ダークナイト』(08)のジョーカーのような絶対的暴力の行使者たちをすでに目にしてしまったいま、常に国家という組織を引きずるボンドの暴力には地政学的矮小性という限界がつきまとう。

要は、2009年の現実世界においても、映画としての虚構世界においても、今回のボンドの凄まじい凶暴性に説得力が感じられなかったということだ。

そういえばアクションシーンで多用された、意味を認識する直前に、視覚的に無理やり脳にダイレクトに叩き込まれるようなカットつなぎも、観客に対する視覚的暴力の暴走だといえるかもしれない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus disjunctive おーい粗茶[*] カフカのすあま[*]

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