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[コメント] 3時10分、決断のとき(2007/米)

人間対人間のドラマに興味を集中させているマンゴールドはカットのサイズをバスト~クロースアップ中心に組み立て、映画を表情なかんずく視線のそれとして提示する。こと西部劇とあらばバッチリ決めたロングをもっと欲しいと思うのが人情だが、マンゴールドのアプローチも決して不味い選択ではない。
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オリジナル版との相違点を細かに挙げだせばきりがないだろう。三〇分長くなった上映時間を考えれば当然だが、設定・キャラクタ・挿話の追加や掘り下げが目立つ。一方で省略や割愛はほとんど見られない。オリジナル版でヘンリー・ジョーンズが演じたところの護送団に志願する町の酔っぱらい役が削られている点が気になるぐらいだが、そのキャラクタ性は一部アラン・テュディックの医師に継承されていると見ることもできる。

ベン・フォスターを当てたチャーリー・プリンス役の拡大も映画の成功要因だが、ドラマを中心に眺めた場合、より重要なのはやはり牧場主役の造型の変更だろう。オリジナル版のヴァン・ヘフリンは当初から理想的な父親像を体現していた面が強かったが、このクリスチャン・ベイルの家庭内の立場はかなりボロカスなことになっている。ベイルと息子ローガン・ラーマンのドラマを焦点化して「父親の偉大」を描くあたりがこのリメイクの眼目だ(ラーマンという年若の俳優がまた達者に演じています)。「はじめは(あるいは対外的には)金が目当てで護送団に志願したが、本当は違う」というところをオリジナル版以上によく演出できている。

そう、この映画は珍しくベイルがよい。ベイルの最良作と云っても差し支えないかもしれない。まったく面白味を持たない俳優がゆえの、云わば「地」の悲哀がよく出ている。実際に取っ組み合ったら強盗団ボスのグレン・フォードにも勝てちゃうんじゃないの? といったところがヘフリンにはあったが、この敗残者ベイルにはそんな気配がまるでない。だからこそ悪名高きラッセル・クロウが敬意を表すべき「対等」の男としてベイルに接しだす「逆転」現象がより感動的なものとして迫ってくる。銃撃の嵐をかいくぐって駅へと向かう二人。アクション演出のもたつきを指摘することもできるが、しかしこれはすばらしく催涙的なバディ・アクションだ。

画面造型力についてはオリジナル版のデルマー・デイヴィスに軍配を上げるが、コンテンション駅を境にして向こう側に雪の広がる風景はよい。爆発などの視覚的に派手な見せ場の増加も現代の観客の嗜好に合わせたと云うより、黒白映画をカラー映画としてリメイクするに際しての戦略の一環という側面が強いと見るべきだろう。

(評価:★4)

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