[コメント] あなたと私の合い言葉 さようなら、今日は(1959/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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最初にまったく個人的なことを書きますが、いや、もしかすると最後まで個人的なことしか書かないかもしれませんけどね、近所の名画座でかかっていたので市川崑というだけで観に行ったのです。何の予備知識もなし。 そしたらあーた、オマージュなのかパロディーなのか、小津ですよ。 そして京“最強妖女”マチ子ですよ。そして眼鏡っ子。たまらんな。
脚本に久里子亭の他に大映お抱え脚本家舟橋和郎の名がクレジットされていて、ちょうど数日前にケーブルテレビで舟橋和郎脚本の「投資令嬢」ってシネスケ未登録なんだけど登録するほどでもない映画を観たばかりだったの。 一生のうちで舟橋和郎の名を立て続けに見ることってそうないよ。『兵隊やくざ』シリーズでも観ない限り。
この映画、その手法ばかりに目が行きがちですが、台詞もすごくいいんですね。 「若い頃は何でも欲しがるが、年を取るとだんだん捨てていく。人間は一人で生まれて一人で死ぬんだ。」なんて台詞(全然正確に覚えてないけど)、舟橋和郎には書けないなあ(<失礼な)。和田夏十のセンスだと思うんだけど違うかなあ。
しかしね、オマージュなのかパロディーなのか、小津ですけどね、現役監督、それも大先輩ですよ(当時市川崑44歳、小津56歳だと思う)。 しかもこの頃、小津は日本映画監督協会理事長ですよ、たぶん。 本当か嘘か真偽は知りませんが、市川崑は小津に謝りに行ったとか。
でもね、すごいと思うんだ。
今、小津へオマージュを捧げる人(パロディー含む)は大勢いるけど、小津の小津らしさを1959(昭和34)年当時に捉えられた人はほとんどいなかったんじゃないだろうか。 たぶんこの映画が世界初。知らんけど。 小津の最大の特徴であるローアングルじゃねーじゃん!と言う人もいるかもしれないけど(本当はローポジションが正しいらしい)、小津の最大の特徴がローアングルだって言い出した(世間に広まった)のは小津の死後だと思うんですよね。たぶん蓮実重彦か佐藤忠夫。 少なくとも、小津の特徴が理論的に解明されたのは死後ですよ。たぶん。 そのはるか以前に“小津”をやりつつ、自分らしさも全面に出ている市川崑はすごいと思う。
余談
なぜか舟橋和郎にこだわって「投資令嬢」まで持ち出したついでに余計なことを書くと、昭和30年代半ばの現代劇って、“職業婦人”“女性が強くなった”という設定が多い気がする。 (ちなみに「投資令嬢」は恋より株式投資に熱中する女子大生という設定)
ただ、おそらく当時の先端だったであろう“風俗”を“特異な設定”として扱っただけで、結局ガール・ミーツ・ボーイ等の定番恋愛物語に落ち着く映画が多かったのではないだろうか(「投資令嬢」も例外ではない)。 それら多くの企画映画(規格品と言い換えてもいい)と本作が大きく異なるのは、その決着にもあると思う。
同じ職業婦人でも、妹はスチュワーデスという「女性憧れの職業」なのに対し、姉は自動車会社のデザイナーで海外留学まで持ちかけられるバリバリ「男性社会の一員」なのだ。 「女性の幸せ=恋愛・結婚」という当時の風潮の中、「仕事も選択肢の一つ」という新たな価値観を提示したとも言えないだろうか。 ハッピーエンドとも思えるラストの若尾文子の意志ある表情は、そう物語っているように思えてならない。
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