[コメント] 2012(2009/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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割れる地面の亀裂から、或いは、噴火した火山が吹き上げた、燃えさかる岩石が頭上から降りかかるのを逃れつつ、待機してある飛行機へと必死に進んでいき、飛行機が飛び立ってからも、不安定な飛行による落下の危険を抱えつつ、眼前に現れるビルや電車をかわして飛んでいく、という、垂直と水平、二方向の緊迫感がスリリング。
後半でも、氷山激突の危機が、歯車の故障によってゲートが閉じられない危機と同時に襲いかかるが、二つの危機が、方舟内の別の場所に分かれてそれぞれのシーンとして同時進行するせいで、同時的危機という相乗効果が、一つの画の中で実現していない。また、方舟への人々の収容シーンでの、津波到来までのタイム・リミットという危機は、津波そのものの視覚的な脅威よりも、「時間」という抽象的な危機が、視覚的にはデジタル時計の表示という形で示されるせいで、盛り上がりに欠ける。
その上、最後の危機は、「歯車になんか引っかかっちゃった!」というアホなピンチが、夥しい人命を危機にさらすというもの。操縦席の窓ガラスに簡単にヒビが入ってしまうなど、人類の存亡をかけた船にしては造りがヤワなのも情けないというか、気持ちが萎える。
混乱時に破壊ないし盗難を受けないよう避難させられる本物の代わりに掛けられた、贋物のモナ・リザが微笑みを湛える口許のカット。雪山での絶望的な状況下、頭上を飛ぶヘリが「方舟」に運ぶ、キリンや象。方舟へと歩く老婦人と、彼女のペットの犬。世界の崩壊に際して救われるものが、様々な理由で選別される光景を、淡々と映し出す数々のショットには、エメリッヒは単なるバカではないと思える。
ロシアの富豪ユーリ(ズラッコ・ブリッチ)が飛行機内でジャクソン(ジョン・キューザック)に語る、「君が私のような金持ちなら家族の為に同じことをするだろう」という言葉による、三文文士と富豪の人間的共感。それでいて、いざ雪山で中国軍のヘリに発見されると、パスを持たない連中のことはスッパリと見捨てるユーリ。それでいてやはり、二人の息子のことは命がけで方舟に乗せる行動。ただの厭味な肥満児のようだったこの二人の子らにしても、機内では「うちの親も離婚したんだ」と、ジャクソンの子と会話していたし、ユーリのおバカな愛人にしか見えなかったタマラ(ベアトリス・ローゼン)も、ジャクソンの元妻ケイト(アマンダ・ピート)と共感し合う。
ケイトと店で買い物をしながらゴードン(トーマス・マッカーシー)が「何かが僕らの間を裂こうとしている気がする」と言った時に床が割れるシーンや、システィーナ礼拝堂の天井画に入った亀裂が、神とアダムの差し出しあう指先の間を裂くカットなど、エメリッヒなりに描こうとしていたテーマが明確に示された箇所はあるが、明確すぎて芸が無い。全体的に見ても、スピルバーグの『宇宙戦争』などが作られた後でこの程度のプロットでは、楽観的過ぎると批判されても仕方のない面がある。
「卵を割らないで」などとチンタラ運転している婆さん二人にキレるジャクソンや、カリフォルニア州知事の記者会見をテレビで観ての「彼は役者だ。彼が『大丈夫だ』と言えば実際には危機に決まっている」というツッコミに覗く日常性。それが単なるユーモアとしてではなく、「日常の崩壊」という恐怖の演出へと達してくれていたら見応えもあるのだが、エメリッヒがそこまでいくには百歩以上の進歩が必要なのかもしれない。
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