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[コメント] Dr.パルナサスの鏡(2009/英=カナダ)

ギリアム的タブローの味わいが無くファンタスティックな映画の情動もないSO-SO作品
junojuna

ギリアムのタブローとは、ペンの濃さが深く刻み込まれたアナログな風合いにおいて最も醸し出される逸品だった。しかし本作はどうだろう、デジタルの輪郭が余計にシャープに浮き上がり、人物と背景の乖離があられもない格好となって立ち現れてしまっている。ヴィジュアルイマジネーションの強度において他方の雄であるティム・バートンと比すると、雲と泥の差をつけられて可哀想の域だ。それでもイマジネーションはギリアム節ならではという拘りも見せる。劇中ハッとしてグッなシーンは随所に見受けられもする。ジュード・ロウが高竹馬で野原を歩き回るシーン、トム・ウェイツが踊る鏡の間のシーンなど、いくつかのイメージでサムズアップの輝きもあった。ストーリーなどはじめからあってないようなものだから、こちらを追いかけることはよそう。しかしながら、ストーリーを凌駕する映画のタイムラインに乗じる情動性というものが全くないのはいただけない。たとえばフェリーニの清濁が溢れ出す祝祭性やクストリッツァが見せる突き抜けた飛翔衝動といった奔流がなく、訴える力が希薄にして残念でならない。これはイメージ先行強度型の作家に起こりがちな不燃現象である。結果、今この作品を語るものは、ヒース・レジャーの最後の勇姿が刻まれた作品となったこと、友情溢れる3人の俳優が男気を見せたこと、出演意思を見せたトム・クルーズがギリアムに断られたことくらいしかないのではないか。ギリアムの限界を測るにはまだ早いと言っておきたい。

(評価:★3)

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