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[コメント] 時をかける少女(2010/日)

何度も席を立ちたくなった。懐古趣味に遊ばず、プロダクションデザイン主体で74年を描く方針は支持するが、幼稚な脚本は救えない。映画青年が出てくる映画は駄作だ、とつくづく思った。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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美点がほぼ皆無の映画である。まず、これは『時をかける少女』じゃないでしょう。脚色の範疇を越えた別物、後日談という位置づけははっきりさせるべき。メインテーマで終わった大林版を引き継ぐ形で、メインテーマで始まるオープニングの安田成美には多少の期待を持ったが、タイムリープ薬の発見、勝村政信(吾朗)が持ってきた写真、安田の交通事故と、導入部の偶発的な段取り臭さに辟易。

純愛を貫くのは必然である。そして、偶然を必然に感じさせてしまうのがファンタジーの力であろう。仲里依紗のタイムリープシーンも大林版へのオマージュといえば聞こえはいいが、今時の表現としてはあまりに陳腐である。そして中尾明慶だ。悪い役者ではないとは思うが、あまりに野暮でアップに耐えない。母の青春時代の恋を追体験するはずの仲里依紗の相手として腑に落ちない。例えば松山ケンイチのような、どこかつかみどころのない年上男性であったらよかった。とにかく、この74年の面々が揃いも揃って濃すぎる顔立ちというのもどうかと思う。映画なのだから、私たちが生きた74年である必要はないのだ。加えて未来人深町を演じた石丸幹二の生真面目なつまらなさ。色気がない、驚きがない。

そもそも、この脚本は青春ドラマの通過儀礼から目を背けている。時間旅行者は自分の身分を明かせない、という前提はあっさりと無視されている。孤立無援の中で如何に他者を説得するか、その協力者にどれだけの情報を与えるのか。これはタイムパラドックス以前のドラマツルギーの問題である。

安田が昭和47年の100円玉を集めたのは、過去に戻れたらその先は自分ひとりで何とかするのだ、という決意の象徴である。しかしこの映画は、ヒロインに自分の運命を切り開かせるという試練を与えない。だらだらぐずぐずと中尾に媚び依存しているにすぎない。この脚本家は、自己確立のプロセスを描く機会をみすみすドブに捨ててしまった。

脚本にしてもキャスティングにしても、谷口監督が関与する余地はどれほどあったのかと思う。戦犯はプロデューサーだろう。すでに鈴木杏に似てきている仲里依紗は、無難にこなす演技癖がつかなければいいと思う。

(評価:★1)

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