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[コメント] パーマネント野ばら(2010/日)

「パーマネント野ばら」という題名の響きをそのまま映像化したような世界。そのあっけらかんとした響きの中に含まれる、繊細な脆さと生命力。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いつもその周りが賑やかだったなおこ(菅野美穂)の周りから、母(夏木マリ)が団体旅行に去り、娘のもも(畠山紬)もよそへ預けられて去り、一人ぽつねんと残されたなおこは、世界に二人きりのような静けさの中でカシマ(江口洋介)と温泉旅行を共にする。パンチシスターズやみっちゃん(小池栄子)らの賑やかさが消えると、こんなにもなおこの周りには何も無い白紙の空間が広がるのか、と感じさせられる静謐さ。周りの女たちの生々しさとは少し距離を置きながらもその賑やかさに包み込まれてもいたなおこが内に抱えていた寂しさが、ここからのシークェンスでは、画面そのものに溢れ出すようになっていく。

この「寂しさ」の頂点が、なおこが電話ボックスからカシマに、自分はどうしてこんなに寂しいのかと訴えるシーン。そこから、パーマネント野ばらではいつも聞き役に見えたなおこが、実はみっちゃんやともちゃん(池脇千鶴)らを優しい聞き役にしていたことが明らかになる。「私、カシマとつき合ってる」という告白をしていたことを忘れているなおこ。そうして、カシマとの永遠の新鮮な関係を繰り返しているなおこ。回想シーン中の、カシマの葬式で祭壇に飾られた彼の遺影は、ともちゃんの旦那の葬儀シーンと重なる。だからこそ、一見するとなおことは比べものにならないほど不幸に思えるともちゃんとの対比として、愛する人の死を受け入れられないなおこの抱える虚無が際立つ。

葬儀シーンの最後では、失恋の痛みに耐えかねたパンチ女が海に身を投じようとし、皆が制止しようとするが、ももが彼女らの後から海に向かうのを、なおこは叫び声をあげて止めようとする。対して、傍にいたみっちゃんは「男運の悪さがうつるで」と笑いながら声をかけるのだが、このシーンでのなおこの必死さは、恋の喪失の暗喩としての「海」との結びつきの深さゆえにでもあるのだろう。電話ボックスのシーンで、夜の海に漁船のものと思しき灯りが揺れていることで、暗闇の中にも「海」の存在が示されていたこと。ラストシーンが、海辺の幻に置き去りにされたなおこをももが呼びに来たところで終わっていること。港町というロケーションは、この作品の世界観そのものに浸透している。故に、ラストシークェンスの浜辺でみっちゃんに声をかけられたなおこのすぐ傍に、波が押し寄せる様は、「海」が彼女の心の隙間を埋めていたことの優しさと残酷とが、胸に迫る画だ。

このような「ショットをして語らせる」演出に於いて、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』などとは比較にならないほど進歩が見られるのが嬉しい。みっちゃんのオヤジが電柱を電ノコでぶった切る光景も、なおこが独り沈んでいるシーンへのカットインに際しては、夜の闇の中に飛び散る火花の、激しくも線香花火的な寂寥感をも撒き散らす様、電柱の影が倒れる光景の、甘く切ない終末感が印象的。

学生時代の思い出のままのカシマの白衣と、それに合わせたようななおこの服の白さが哀しい。「パーマネント」とは、「永遠」という意味だ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)うたかた[*] 赤い戦車[*] ぽんしゅう[*]

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