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[コメント] 二十四の瞳(1954/日)

本作を超える涙腺崩壊映画はちょっと他にないですね。映画館中、嗚咽と、その我慢に失敗したひきつり声、鼻水をすする音に満ちておりました。 
ゑぎ

 恐るべき涙腺破壊パワーです。実は、観客だけでなく、それ以上に映画の後半では、高峰秀子が泣きに泣くのですね。

 さて、純粋に画面の良さに目を向けましょう。それは、何と云っても、美しい超ロングショットが多い部分です。やっぱり、広大な自然をバックにしたときの木下映画はいい。例えば、山の上から超ロングで、道を歩く人々を撮ったショットなんて、まるでアンゲロプロスのようだと感じました。また、土手下のカメラから土手を歩く子供等を撮った仰角ドリー(横移動)ショットも素晴らしい。この仰角ドリーをもっと長い時間持続していれば、溝口のようになるのですが、それを嫌ったのか、けっこう潔く切ってしまうのが勿体ないと思えました。

 という訳で、私とて名作であることに異論はありませんし、涙腺破壊の手練手管とその遂行能力には驚嘆しますが、登場人物の泣かせ過ぎは嫌いだし、なのでいく分、天邪鬼な心持ちにもなり、木下のやり口は姑息な戦術とも思えてしまいます。

 さて、手練手管の第一は、感傷的な、あるいは郷愁を誘う、誰もが耳にしたことのあるような唱歌や讃美歌等の挿入歌・劇伴の多用ですね。決定的に印象深い音楽を備忘で下に記述しておきます。

・クレジットバックとエンディングにも流れている「仰げば尊し」が、全編通して一番使われているように思いますが、劇伴としてはスコットランド民謡の「アニー・ローリー」も多い。

・貧乏のために奉公に出される松江にまつわるプロット全体が大きな泣き所で、アルマイトの(百合の花が描かれた)弁当箱の場面や、教室の空の席のカットなどでも流れている「星の界」(讃美歌「いつくしみ深き友なるイエス」)のメロディーと、修学旅行で、金毘羅を訪れた場面で使われる「七つの子」はもうズルい!と思ってしまうぐらい。

・そして、修学旅行の船上とラスト近くの宴会場面で月丘夢路によって唄われる「浜辺の歌」も泣ける!

・あと、高峰の夫(天本英世)のテーマ曲のような使われ方をする(天本が乗る船と修学旅行の遊覧船がすれ違う場面の楽隊が演奏する曲で、敗戦の日の夕食シーンや、続く、木から落ちた娘を医者へ運ぶ場面などでも流れる)「埴生の宿」(イングランド民謡「ホーム・スイート・ホーム」)も。

#もう一つの最強涙腺破壊映画、高畑勲の『火垂るの墓』のラスト近くで、水辺の洞穴の側のお屋敷から聞こえてくる歌も「埴生の宿」でした。

(評価:★3)

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