[コメント] トゥルー・グリット(2010/米)
ロジャー・ディーキンスはややもするとルシアン・バラード以上の撮影監督かもしれないが、今回ばかりはカーター・バーウェルに泣かされた。“Leaning on the Everlasting Arms”を軸とした楽曲群がシンプルなオーケストレーションで情感豊かに奏でられ、コーエン的脱臼話法とは裏腹の素朴な感動を誘う。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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あたかも「正統派西部劇」であるかのような顔を装いながら、コーエンは念入りにカタルシスの到来を回避してゆく。そもそも西部劇の息も絶えかかっていた一九六九年に制作された原典『勇気ある追跡』が果たして「正統派」であったのかは、ジョン・ウェインでさえ「アイパッチの酔漢」という変則的な主人公を造型しなければならなかったところなどを鑑みれば大いに怪しいが、ともあれジェフ・ブリッジスの「勇気」と射撃技術には常に疑問符がついて回り、マット・デイモンの役回りには掴みどころがなく、一篇の映画の悪役を担うにはジョシュ・ブローリンは矮小すぎる。このように普通なら欠陥と認識されるような組立てのこの映画は、しかしどこか有無を云わせぬ奇妙な納得感で充実している。蛇に咬まれたヘイリー・スタインフェルドを抱えて医者のもとへ駆けるブリッジス、その仰角カットに仕掛けられたスクリーン・プロセスに覚える感動はいったい何ゆえだろう。あるいはスタインフェルドからエリザベス・マーヴェル(不惑のマティ・ロス)へのキャスト・リレイ。違和感と納得感がない交ぜのまま、それらは「映画上の事実」として打ち立てられ、懐古/回顧の対象となる。コーエンは狡猾に郷愁を利用している、とも云えるかもしれない。しかし私はそれに抗えない。
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