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[コメント] ブルーバレンタイン(2010/米)

話の痛切さを増幅する映画的な魅力に溢れている!もしかすると受け止め方に男女差がある映画かもしれないけど。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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公開時に気になっていたのだが、「『ブルークリスマス』とは違うらしい(<当たり前だ)」くらいしか情報がなく、観に行く決定打がないまま見逃していた。 けにろん師匠の2011年上半期ナンバー1情報に後押しされて二番館で鑑賞。 観てよかった。シネスケと師匠に深謝。

冒頭から不穏な空気が流れ、現在シーンでは重く冷たい空気感が、過去シーンではゴダール『はなればなれに』ばりの映画的幸福が、台詞や説明ではなく、映像として画面から溢れている。 リアルで確かな演出力。

このリアルで確かな演出力は、ウチのヨメにどっぷりミシェル・ウィリアムズ演じる女性に感情移入させたようで、ライアン・ゴスリング演じる男に「不快指数100%」。 早朝叩き起こされる所や「(犬小屋の)鍵をかけろっていつも言ってんじゃん」と言われる辺りで既にブチ切れていたそうだ(それって映画始まって早々じゃないか)。 「男と女のすれ違いの物語」であるのだが、観客側の受け止め方にも男女差があるのかもしれない。

「男女すれ違いの物語」自体は珍しいものではなく、むしろ人類永遠の難題とも言える。 (男視点の物言い限定になるが)古代ギリシャの賢人達も「女はわからん」的な哲学的名言を残し、日本でも「女心と秋の空」とか言い、フランス映画に至っては製作されるほとんどが「女はわからん映画」なのである。 要するに、長い歴史的な時間をかけても、男に女は分からんのだよ! 私はそうした女性の分からんさ加減に“猫”的な魅力を感じるのだが(時には“犬”みたいな従順さが欲しいと思う時もあるけど)、この映画はもう少し分析的で、「変わらない男」と「成長していく女性」という形で描写している。 (普通「変わらない男」は「夢を追い続ける」「俺はミュージシャンになるんだ」的な扱いが多いのだが、この映画はそうしたわけでもなく、実に良くできている。)

人類永遠の難題である男女関係は、当然数々の映画の題材に取り上げられてきたわけだが、そのほとんどは「出会いの過程」「分かれる過程」を中心に描いたものである。 たまに「別れ」の結末を先に提示して、楽しかった「出会い」と「二人が冷めていく過程」を描く映画もある。 私はこれを「かつてはあんなに愛しあったのに」系映画と呼称し、フランソワ・オゾン『ふたりの5つの分かれ路』とオードリー・ヘプバーン主演『いつも2人で』が代表例だと断じているのだが、そもそも「冷めていく過程」なんて観ていてそう面白いもんじゃない。 『ブルーバレンタイン』はこの分類に限りなく近いが、微妙に違う。 この映画は「別れ」という結末の少し前から描いているのだ。

少し見方を変えれば、「冷めかかった二人が別れの結論を導き出すまでの一晩の物語」に見える。 言い換えれば「実はもう答えが出ているのに直視しなかった二人が、はっきりと答えを口にするまでの物語」とも言える。 そこにカットバックで「楽しかった出会いの頃」が入ることで(そして冷めていく過程を省略することで)、「どうして二人はすれ違ったか」ではなく「最初からボタンを掛け違ったのではないか」と思えないこともない。

そう思って考えなおしてみれば、男は「100%の女の子」に出会ったような一目惚れをし、女は心の空虚を埋めるように男に惹かれていったのだ。 それはどこかで、「ゴール」に出会った男と「(成長)過程」で出会った女の物語でもあるようにも思う。

(11.09.11 飯田橋ギンレイにて鑑賞)

(評価:★4)

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