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[コメント] ツレがうつになりまして。(2011/日)

程度の差こそあれ、僕もうつ病を患っています。過去形で書けないのが非常に残念なのですが。こういう映画は、うつ病経験者本人の為の映画じゃないんです。むしろ、うつ病の人が周囲にいる人の理解・啓蒙映画なんです。今、周囲にうつ病の人がいなくても、いつ自分の大切な人がうつ病になってしまうかわからない世の中だから、笑いながらでも観てほしいと僕は思います。
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 うつ病になると、突然涙が出るんです。生きててごめんなさいってなるんです。今まで出来てた事が何も出来なくなって、コンビニでレジ打ってる高校生にすら敵わない気がしてしまうんです。やらなくちゃいけないことが幾つも重なるとパニックになるんです。死ぬ方法ばかり考えてしまうんです。笑い事じゃないんです。でも、傍から見たらきっと笑い事なんです。

 程度の差こそあれ、僕もうつ病を患っています。過去形で書けないのが非常に残念なのですが。

 当初、半年や1年程度で治ると言われてましたが、もう随分長いことこの病気と共に生きています。

 原因はハードワーク、結婚という形式による重圧、色々重なったんでしょう。

 自分はうつ病なんかとは無縁な人間だと思ってました。うつ病に関する知識も持ち合わせていませんでした。だから、心療内科や精神科なんかに足を運ぶなんて考えてもみなくて。

 倦怠感とか焦燥感が余りに酷くて、疲れを取る市販薬やべらぼうに高い漢方薬をネットで購入したりしてました。

 ある手術の術後検診に行った際に、担当医から「うつ傾向があるみたいだから、心療内科を受診してみるといいよ」と紹介状を書いてもらい、診断の結果初めて自分がうつ病だと認識したんです。

 死にたい死にたい死にたい死にたい。できるだけ人に迷惑のかからない方法で死にたい。

 布団の中で考えることといったら、どうやって死ぬのが一番奥さんに迷惑がかからないか、ということばかりでした。それと同時に彼女は一人でも車検は通せるのかな。任意保険の更新はできるのかな。生命保険の受取はできるのかな。そもそも保険証券の在り処をきちんと覚えているのかな。いろんな事が頭を過ぎりました。

 自分の体温が調節できなくなったり、脈拍が不規則になったり、自分の身体が自分の身体でないみたいになるんです。

 劇中、津田寛治が自分の人生のそれなりの成功っぷりを自慢げに語り、「お前も頑張れ」なんて見舞いに来たりするシーンがありました。

 僕は、友人・知人から届いた幸せいっぱいの、生まれたての赤ちゃんの写真なんかを印刷した年賀状を見て、一人孤独感に襲われ、その年賀状を全て破り棄てました。

 新車の外車を買った、という友人の話も聞きたくないので電話にも出なくなりました。

 僕の場合、「自分はうつ病なんです」って言うのが恥ずかしくて誰にも言えませんでした。「無職です」って言うのも恥ずかしくて昼間出歩く事すらできなくなりました。

 こういう映画は、うつ病経験者本人の為の映画じゃないんです。むしろ、うつ病の人が周囲にいる人の理解・啓蒙映画なんです。今、周囲にうつ病の人がいなくても、いつ自分の大切な人がうつ病になってしまうかわからない世の中だから、笑いながらでも観てほしいと僕は思います。

 うつ病の症状がリアルじゃない、とか、コメディタッチで描いていて不謹慎だ、とか、いろいろ意見もあるでしょう。

 だけど、うつ病に関して何も知識がない人が、患者に対して「頑張れ」を連呼するよりこの映画を観て、「頑張りすぎたら駄目なんだよ」って言ってくれた方が患者当人は楽なんです。ほっといてほしい時だってあるんです。

 セロトニン云々、向精神薬云々、天候に左右される云々といった、映画で言われている内容はとてもリアルです。きちんとした知識に基づいて描写されています。

 うつ病に罹ってわかったこともあります。人は人、自分は自分という価値観を持てたこと。支えてくれる人がいると再認識できたこと、物欲に支配されていた自分が解放された気分になれたこと。

 僕はうつ病と今も付き合っている者です。そして死ぬ勇気も覚悟も持てず恥ずかしながら生きてきました。でも、この映画のお陰で「恥」を感じることなく「実はうつ病なんですよ」ってカミングアウトできました。

★5つです。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)寒山拾得[*] ぱーこ[*] イライザー7 まー McCammon ロープブレーク

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