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[コメント] ヒミズ(2011/日)

「がんばる」とは、いったいどうゆうことなのだろう。昨春の大惨事以来、この言葉が繰り返されるたび、その意義が強調されればされるほど、言葉が意味する本質が見えなくなる。「がんばろう」に侵食される少年と少女。言葉にこだわる作家、園子温の真骨頂。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







声をかける側が「がんばれ」と発すれば発するほど、その言葉からは質量が失われ抜け殻だけが虚しく響くさまを我々は経験した。そして、「がんばれ」と言われる側には、彼らが背負った逆境に「がんばる」ことがさらに加算され重くのしかかるということも知った。

言葉は、その意味をぎりぎりまで突き詰めていくと、あるいはもう後がない状況で発せられたとき、その実態を失うということ。それでも我々は、言葉を頼りに前に進むしかないのだということ。本作は、そのディレンマに真摯に向かい合おうとしている。

母から存在を否定された少女(二階堂ふみ)は、ぎりぎり「普通」を保っている少年と同化することで自らの普通を保とうと頑張る。少女の自分の生存を賭けた頑張りは、場違いなポジティブさでその場を輝かせる。ぎりぎりの「普通」を失った少年(染谷将太)は、世の中のために人を殺そうと頑張る。自己の存在を賭けた少年のピュアな頑張りは痛々しくも共感を生む。

初老の元社長(渡辺哲)は清く真っ当な願いをかなえるために、血にまみれた薄汚い蛮行に頑張って手を染める。少年の周りに集まり無為な日々を過ごす者(吹越満神楽坂恵諏訪太郎川屋せっちん)たちは頑張ろうとしない落伍者だろうか。いいやちがう。「俺たちは日々、最低の生活を生きるために頑張っている」と彼らは言うだろう。

泣きながら「がんばれ」を連呼し前進する少年と少女の未来に希望は開けるのだろうか。はたまた、その言葉の重圧に耐えながら瓦礫の野を彷徨い続けるだけなのだろうか。少年と少女の未来。この国の未来。「がんばれ」の意味を見失った今の私には、判断できなかった。

(評価:★4)

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