[コメント] 紳士は金髪〈ブロンド〉がお好き(1953/米)
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どこでやっぱり金より愛よと来るのか待っていると、最後まで万事金で突っ走る。ありがちな紋切型に見向きもしない。この徹底ぶりはある種異様、コメディなのに曰く言い難さが残る。
この作品の背景はアメリカ狂騒の20年代。アメリカ物質主義全盛の50年代に再び取り上げられブロードウェイからハリウッドに至る。80年代の不況のどん底で歌われたマドンナのパロディ「マテリアル・ガール」には物質主義へのシニカルがあったが、本作はそういう当たり前の批評は小賢しいとばかりに何の反省もない。異様ではないか。
主演ふたりの出自と歌われる「リトルロックのスラム」はアメリカ有数の犯罪発生都市であり、本作の4年後にはリトルロック高校事件(ジャズファンにはミンガスの「フォーバス知事の寓話」で有名)が発生している。映画は、ローレライの背景の説明はこれだけで十分、としている。あとは万事金。もちろん『百万長者』などとはものが違う。
制作側の主張が見えない。いや、どこかに主張はあるように思うのだが、ヌーヴォーロマンの傑作に似て、霞のように消えてしまう。時代の勢いに乗っかって物質主義に肯定的につくられたようでもあるし、アメリカンドリームの逞しさを謳ったようでもあるし、こんな刹那的な時代だったんですよと後世に客観的に示したようでもあり、三すくみで主張が抹消されたような感触が残る。この呆気にとられる収束、技法としても、とても優れているのではないだろうか。後は自分で考えろと云われている気がする。原作(未読)の貢献かも知れないが、ホークスの直球勝負の演出が大いに寄与している。
個人的に爆笑どころはふたつ、オリンピック選手団のマスゲームっぽいダンスとヘンリー・スポフォード三世の件(ホークスの子役を使ったギャグはいつも素晴らしい)。思えばここはアメリカの戯画ではなく、それぞれ社会主義国と封建世襲貴族のパロディに見える。その他の機知は面白いが、爆笑はさせてくれない。ローレライの身を切るような人生の冒険でもあるから。
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