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[コメント] 悪魔の手毬唄(1977/日)

市川崑監督自身にこそ「岸恵子さんを愛してらしたのですね」と聞きたくなるくらい女優愛に貫かれた映画だ。
ナム太郎

犬神家の一族』に端を発した横溝正史ブームは、それはそれはすごいものであった。当時小学生だった私も、あの細かい字で埋め尽くされた分厚い文庫本を何度も何度も読み返し、その世界に浸りきっていた記憶がある。そんな中、作者自らが最も愛着のある作品と語っていた『悪魔の手毬唄』は、『本陣殺人事件』や『犬神家〜』、『獄門島』などとともに作者のファンであるならば当然読んでおかなければならない経典のようなもので、映画が公開された当時も、多数の観客が犯人は誰かということを十分に承知したうえで劇場に足を運んでいたわけである。そのような意味では、この作品を含めたいわゆる石坂=金田一シリーズを「犯人がすぐ(あるいはキャスティングの時点で)読めた」などと批判するのは大きな間違いであって、むしろそういった部分をも大らかに楽しんでほしいというのが制作者、あるいはこのシリーズの監督をつとめあげた市川崑の意図ではなかったかと私は思っている。

たとえばこの映画なども、犯人があの人だとわかったうえで見ていれば、その人によるあの独壇場ともいえるクライマックスに向けての準備が周到に行われていることがよくよく見えてきて、さすがは市川崑だなぁと感心することしきりだし、そういう意味では今はもう逆に「おはん」という老婆が出てきただけで笑い出したくなるような楽しみを感じてしまったりもするのだが、そういった大らかな楽しさがあるからこそ、一度だけではなく二度でも三度でも見たいと思える作品に仕上がっているのだと思う。

2時間半という上映時間は、当時は大作ブームが吹き荒れていたとはいうものの、それでもやはり一般的には長いと感じても仕方がない時間である。けれどもこの映画は決してそんなことを思わせることがない娯楽作に仕上がっていて秀逸である。例えば『犬神家〜』のような映画と比べると、坂口良子が演じた女中のような、いわゆる笑いのキーとなる愛すべき脇役が弱いのが残念ではあるが、それでもドロドロとした怖さという点ではシリーズ中の白眉であるし、また、若山富三郎より市川崑監督自身にこそ「岸恵子さんを愛してらしたのですね」と聞きたくなるくらい女優愛に貫かれた映画だということも忘れずに記しておきたいと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)いくけん けにろん[*] uyo[*] ぽんしゅう[*]

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