[コメント] ワイルド・アパッチ(1972/米)
これは大変な傑作。アルドリッチにとっては多分不満だったろう自作『アパッチ』(1954)の静かなるリベンジ。
映画の切り口は『アパッチ』の丁度裏返しで『アパッチ』が最後まで戦うインディアン戦士をインディアン側の視点で描いていたのに対して、本作『ワイルド・アパッチ』は追撃する騎兵隊側の視点を中心に描いている。そしてバート・ランカスターが『アパッチ』ではインディアンの勇士を演じ、本作では追跡する白人を演じるというキャスティングの妙。いずれにおいてもランカスターがアルドリッチらしい聡明な複雑性を象徴する人物として描かれている。ただし『アパッチ』でのランカスターの複雑性はジーン・ピータースとの恋愛沙汰として表出している部分が多く、インディアンを描くという点ではどうにもピントが絞り切れていなかったのだが、こゝでは異民族や異文化といった垣根を越えた人間の光と闇を知る人として一貫して聡明に描かれている。
人間の闇の部分を描く手段として非情な暴力描写も多い。流石に凄惨な殺人シーンはオフで処理されているのだが、その結果である弄ばれた死体は目をそむけることなく画面として提示される。残虐行為はインディアン側だけでなく騎兵隊の兵士たちも同様におこなう。アルドリッチの演出は明らかに何かを告発する姿勢ではなく、最後の最後まで静謐かつ厳格だ。その透徹した厳格さは『ソルジャー・ブルー』(1970)のような幼稚な構図置換の映画とは比較にもならない。この『ワイルド・アパッチ』を前にすると『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990)なんて子供騙しの似非アンチヒロイズムとしか思えない。
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