[コメント] 嘆きのピエタ(2012/韓国)
本能としの愛情の強度についての映画である。青年は母と子を結ぶ愛情の強靭さを知らなかった。その「強さ」とは人間の本能に根ざした力である。人の存在に係わる絶望が引き起こす自己破壊的結末。キム・ギドク流の悲痛が噴出する何とも壮絶なラストシーンだ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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母(チョ・ミンス)の行動原理を支えるのは息子への愛情だ。青年ガンド(イ・ジョンジン)は母と息子の間に根ざす愛情の強さを知らない。その「強さ」は人間の本能が生み出す力であり、言い代えれば人の制御能力の範囲を超えた力だ。
青年は母によって本能としての愛情を呼び覚まされ、その「強さ」を自覚させられる。青年を包む安らかな至福の時。その本能的(動物的)安堵から再び青年を突き落とすことで目的は完遂される。絶頂とどん底の落差によって増幅される絶望感。この増幅された落差こそが人間の罪に対する畏れに他ならない。無条件の幸福と不幸とは何か、を知っていいるからこそ可能な最強の仕打ちだ。
ギドクの視線の先は、はたして「その愛情」は金銭至上主義や、強権的暴力志向といった現代社会の制度悪に対しても有効に機能し得るのかという課題を見据えているに違いない。何故ならピエタ(聖母マリア)は、この世のすべての罪を背負ったイエス・キリストを胸に抱く存在なのだから。鮮血のラインを引きずりながら夜明けに向かって突き進む一台のトラック。それは血まみれの希望であり、ギドクが現代社会に提示する精一杯の「慈悲」なのだ。
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