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[コメント] ブルージャスミン(2013/米)

ユダヤ・ジョーク版「ボヴァリー夫人は私だ」。内視鏡検査が楽しみと語るお婆さんが素晴らしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ケイト・ブランシェットのジャスミンを私は美人だとはちっとも思わないし、やることなすこと着実に少しずつ非道(亭主を告発するのだから、全部知っていたんだ)なのだが、最後は彼女が気の毒でならなくなっていた。一体どの件からこちらの気持ちが切り替わったのか、確かめようともう一度観たのだが、もう判らなかった。二度目はもう、冒頭から気の毒に思えた。

この女道化は靴屋で働かされた「屈辱」を語り(「見たからね、エリカ!」)、義妹の逞しい男漁りを断罪する。これらがハイソらしいそれなりの理屈で通っているのが道化の道化たる所以で、毒舌は自分に跳ね返り、住む場所を自ら失わせる。古いブルースやジャズの連発が狂乱の1920年代を皮肉交じりに回顧させる。

ジャスミンの真っ当な科白はひとつだけ、探し出した息子に告げる「貴方が必要だったのよ」だろう。一瞬メロドラマに接近し、すぐ離れる。90分の物語が経過し、彼女が得たものは相手を選ばない独白癖の症状進行だけだった。今後の行き先は精神病院だと仄めかせて映画は終わる。この極端な突き放しは私たちの似姿を映しているだろう。しかしそれより先に、ウディ・アレン自身の後悔と自虐を映しているだろう。

ジャスミンは内面的にはアレンの写し絵だが、外面的にはミア・ファローだろう。彼女の養女に手を出した末に別れたアレンは夫のアレック・ボールドウィンに該当する。画面から滲み出る私小説的な自虐がそう語っている。本作はユダヤ・ジョーク版「ボヴァリー夫人は私だ」と呼ぶに相応しい。

(評価:★5)

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